九州大学文学部同窓会
HOME > 九州大学文学部同窓会 > 文学部長挨拶

文学部長挨拶

九州大学文学部の現在と未来

文学部長 久保 智之

文学部同窓会会員の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。文学部のこの一年と、今後のことについて述べます。

【まずお話しすべきこと】
 二〇一六年九月六日に、鹿児島県屋久島の安房川の河口近くで、基幹教育の総合科目として同日から始まった「フィールド科学研究入門・屋久島プログラム」の中で、文学部一年生(当時)の原口翔二朗君が溺れて亡くなるという、まことに痛ましい、あってはならない事件が起こりました(お名前の掲載をはじめ、この記述は、御遺族のお許しを得て行なうものです)。二十三名の受講生(うち三名は早稲田大学の学生)が、「汽水域」という、海水と淡水が混じった川の流れを体験中のことでした。「泳ぎに自信のある者は泳いでよい。ただし流されないように」といった注意はあったようです。原口君が数人と安房川を対岸まで泳いでいる途中のできごとでした。他にも溺れかけた学生さんがいたと聞きます。担当教員は一名(+オブザーバー教員一名)で、危機管理や救護体制など十分だったのか疑問です。九月中に「屋久島フィールドワーク学生事故調査委員会」が設置され、二〇一六年度中に結論を出すべく、聞き取り調査・現地調査などを続けています。原口翔二朗君は、成績優秀で、文字通り将来有望な学生でした。御愛息、御兄弟、そしてお孫さんを突然亡くされた御遺族には、まことに申し訳なく、哀悼の意をお伝えするしか言葉がありません。 九州大学ではこののち、フィールドワークが関わる授業等についての安全確認の作業を続けていますが、二度とこのようなことが起こらないよう、全学を挙げて取り組んで行かねばなりません。

【学生諸君のこと】
 二〇一六年三月には、百五十三名が学士課程を卒業し、三十名が修士課程を修了しました。同九月には三名が学士課程を卒業し、三名が修士課程(広人文学コース)を修了しました。なお、二〇一六年中に博士(文学)の学位を授与されたのは、甲(課程博士)が九名、乙(論文博士)が二名でした。永年の研鑽に敬意を表します。
 二〇一六年四月には、百六十五名が学士課程に入学、三十四名が修士課程に入学、十七名が博士後期課程に入学しました。同十月には三名が修士課程(広人文学コース)に、二名が博士後期課程に入学しました。
 文学部では、二〇一五年度入学者から、入試科目に「地理・歴史」を加えました。「世界の多様性への開かれた関心」があることを求める入試です。その成果か、二〇一六年度の専門分野の決定(研究室決め)では、歴史学の諸分野で学生増が見られました。今後に期待しましょう。
 二〇一五年度の学府長賞優秀賞は、カーティス・タワーズ・ハンロン氏(広人文学コース)、前田修輔氏(日本史学)、福地瑶美(たまみ)氏(英語学・英文学)の三名が、同大賞は、馬場多聞(たもん)氏(イスラム文明史学)、大塚知昇(とものり)氏(英語学・英文学)の二名が受賞しました。大塚氏の博士論文は、人文学叢書として出版されました(後述)。

【教員のこと】
 二〇一六年三月末日をもって、川本芳昭教授(東洋史学)、山内昭人(やまのうち あきと)教授(西洋史学)、三浦佳代教授(心理学)が退職なさいました。また、山口輝臣准教授(日本史学)が東京大学大学院総合文化研究科に転任なさいました。同九月末日をもって、舩田善之講師(東洋史学)が広島大学大学院文学研究科に転任なさいました。皆さまの永年に亘る文学部・人文科学府・人文科学研究院での御尽力に感謝致します。
 二〇一六年四月に、山本健太郎講師(心理学)が着任しました。同九月に、太田真理(しんり)講師(言語学)が順天堂大学から着任しました。若さ溢れる二人です。なお、二〇一七年四月にも、また若い方々が就任の予定です。来年報告ができることと思います。
 外国人教師は、二〇一六年四月に四名が着任しました。任期は二年です。鐘東(中国文学)、テッド・クロンツ(英語学・英文学)、ブライアン・フォックス(英語学・英文学)、オーレリー・ブリケ(仏文学)の諸先生です。
 助教は、二〇一六年四月に五名が着任しました。任期は一年です。山下通(哲学・哲学史)、馬場多聞(イスラム文明史学)、松本圭太(考古学)、鳥山定嗣(ていじ)(仏文学)、増田正彦(言語学)の諸氏です。
 特定プロジェクト教員(授業担当をお願いした方のみ記します)は五名でした。ケリー・ベノム准教授(英語学・英文学)、ジュディス・ラビノヴィッチ教授(広人文学)、エリザベッタ・ポルク准教授(広人文学)、イェン・ヤン助教(広人文学)です。
 サバティカル中の教員は五名です。辻田淳一郎准教授(考古学)はアイルランドに滞在中。高野泰志(やすし)准教授(英語学・英文学)はフランスに滞在中。井手誠之輔教授(芸術学)、遠城明雄(おんじょう あきお)教授(地理学)、安立清史教授(社会学)もサバティカルに入っています。

【第三期中期目標・中期計画のこと】
 国立大学は二〇〇四年四月に法人化しました。六年を一期として、二〇一六年四月からは第三期となりました。「文学部・人文科学府(大学院)、人文科学研究院(教員組織)」では、教育・研究体制をますます外に向かって開かれたものにしていくことが目標です。シラバスの公開・英文化、英文ジャーナル(Journal of Asian Humanities at Kyushu University 略称JAH-Q)の発行(二〇一七年三月に第二号を刊行予定)、広人文学コース博士後期課程の設置(二〇一七年九月予定)、国際コース設置(二〇一八年四月予定)などが進んでいます。二〇一七年度には、研究に関する外部評価を受ける予定です。これら中期目標・中期計画の点検や外部評価にあたっては、自己点検評価委員会の佐伯弘次(こうじ)委員長(日本史学)にお骨折りを願っています。
 九州大学では、教員の人事管理にポイント制を導入しています(巷のポイントと違って、減るのが基本です)。部局のポイント内であれば、教授(一ポイント)や准教授(〇.七九ポイント)等の配置は自由です。二〇一六年度の部局ポイントは42.620ポイントでした。この五年間で三ポイントほど減っています。活性化制度(後述)などを利用してポイントをゲットする必要があるのです。
 財政面では、九州大学全体の財政状況も逼迫していますが、移転を控えていることもあり、部局予算も大幅削減を余儀なくされています。部局予算に加えて、科学研究費はもちろんですが、プログレス100(外国から教員を招聘するなど)、つばさプロジェクト(若手教員が文理融合のプロジェクトを推進)といった学内の競争的資金も、若手の教員を中心に獲得しています。申請書を書くのは、ひと苦労ですが、こうした競争的資金がなければ、フィールドワークや外国人研究者の招聘などは、極めて困難な状況です。

【有識者との懇談会、活性化制度のこと】
 二〇一六年三月に、九州大学の理事も同席して、学外有識者数名および東京同窓会諸氏との懇談会を数回行ないました。その中では、広人文学コース(後述)に代表されるような人文学の国際的発信の重要さをはじめ、文系四学部の学部間の垣根をもっと低くする必要性が指摘されました。これらの指摘は、むしろ文学部や人文科学府の将来構想を後押ししてくれるものとなりました。
 活性化制度という制度があります。各部局から毎年一%の人事ポイントを本部が吸い上げ、出来のいい改革計画にポイントを再配分するという、かなり過酷な制度です。二〇一六年度は、人文科学研究院で一件、文系五部局合同で一件申請し、両方とも認められました(前者は若干のポイント減、後者は厳しい条件付きでしたが)。前者は、広人文学コースの拡張、後者は文系合同の副専攻プログラムの構築です。
 広人文学コースは、英語で授業を行ない、世界的な視野で日本の人文学を教育・研究するコースです(大学院のみ)。その拡充計画が認められたことで、教員が五名に増員します。二十二の講座中の最大人数となります。
 副専攻プログラムは、文系四学部の間で、主専攻=文学部、副専攻=経済学部のように、各学部に副専攻プログラムを設けて、幅広い視野を身につけた学生を養成します。四学部を横断するプログラム(「現代のための歴史」など)も設けます。二〇一八年度から始動予定です。これにも各学部一名の教員が付きました。
 結果として活性化制度で教授一名、准教授二名分のポイント(二.五八ポイント)を獲得しました(二〇一七年度以降)。これも、多年にわたる人文科学研究院執行部の皆さんの努力の賜物と思います。特に、今年度の将来計画委員会の清水和裕委員長(イスラム文明学)に感謝します。

【慶ばしいこと】
 本学名誉教授の中野三敏先生(国語学・国文学)が、平成二十八年度文化勲章を受章なさいました。中野先生は、江戸中期文化に照明を当て、この時期こそが「雅」(伝統)と「俗」(新興)が理想的に融和した江戸文化の開花期であると主張なさり、その後の江戸文化観に大きな影響をお与えになりました。文学部にとっても九州大学にとっても、大変大きな慶びです。また、中野先生が、「もっと基礎学の重要さを世間に訴えよ」と、我々を叱咤激励して下さっていると感じます。
 同じく国語学・国文学の川平敏文准教授が、著書『徒然草の十七世紀—近世文芸思潮の形成』(岩波書店、二〇一五年)により、第三十八回角川源義(げんよし)賞を受賞しました。受賞スピーチでは、恩師中野三敏先生も、同じ四十七歳で同賞を受賞なさったというお話が披露されました。ますますの活躍が期待されます。

【できごと】
 二〇一六年四月十四日から発生した熊本地震では、熊本から通学していた学生さんや、熊本に実家がある学生さんに大きな影響がありました。九州大学としても、罹災した場合の授業料免除や、ボランティア活動への援助などを行ないました。災害への備えが常に必要なことを、あらためて認識させられました。 
 なお、二〇一六年十月二十一日に本学名誉教授の福田殖(ふくだ しげる)先生が逝去なさいました(享年八十三歳)。御冥福をお祈りいたします。福田先生は、同日付けで従四位に叙位、瑞宝小綬章を受章なさいました。
 以下、箇条書きとします。

○  同五月二十五日:台湾大学日本研究センター長の徐興慶教授(日本史学)が講演。徳川ミュージアムの徳川眞木館長も来臨。文学部と台湾大学の学術交流緊密化を約す。

○  同十月二十六日:中国中央文史研究館館長・袁行霈教授一行が講演。南澤良彦准教授はじめ中国哲学史研究室の皆さんに多謝。

○  同十月から十一月:「九大百年 美術をめぐる物語」が福岡県立美術館で開催。後小路雅弘教授はじめ美学・美術史研究室の関係者の皆さんが活躍。九州大学所蔵の膨大なアートコレクションに瞠目す。

○  同十一月十二日:「二〇一六 九州大学・慶北大学校学術交流ワークショップ」開催。森平雅彦教授はじめ朝鮮史学研究室の皆さんと、国際交流委員会に多謝。

【外部との連携、社会貢献のこと】
 二〇一六年度から、朝日新聞との提携授業「ジャーナリズム論」が始まりました。朝日新聞社などから毎週違う講師(記者など)に来てもらい、毎回百人を超える学生諸君が熱心に受講しています。
 朝日カルチャーセンター福岡教室での、文学部との提携講座も二〇一六年で八年目を迎えました。また、人文科学研究院附属の言語運用総合研究センター(上山あゆみセンター長)では、アウトリーチ活動の一環として、「くずし字教室」をはじめ、日本語教師、言語聴覚士、国語教師を対象としたセミナーを続けています。ホームページに情報を掲載しております。御参加下さい。

【最後に】
 人文学叢書という、人文科学府と人文科学研究院の研究成果を公刊するシリーズについて、お知らせします。二〇一五・一六年度出版の四冊は次の通りです。いずれも九州大学出版会から上梓されています(所属は刊行時のものです)。

 9 南宋の文人と出版文化—王十朋と陸游をめぐって—
    甲斐雄一(日本学術振興会特別研究員PD)
 10 戦争と平和、そして革命の時代のインタナショナル
    山内昭人(九州大学大学院人文科学研究院・教授)
 11 On Weak-Phases—An Extension of Feature-Inheritance—
    大塚知昇(九州共立大学共通教育センター・講師)
 12 A Grammar of Irabu—A Southern Ryukyuan Language—
    下地理則(みちのり)(九州大学大学院人文科学研究院・准教授)

 伊都キャンパスへの移転が二〇一八年夏に迫っています。箱崎地区は、移転を完了した部局の建物がどんどん壊され、文系地区と農学部地区以外は、正門周辺にいくつかの建物を残すだけです(旧法文学部の建物も二〇一六年冬に無くなりました)。文系地区ももうすぐ無くなります。皆さまどうぞ、昔の記憶を辿りにお出で下さい。
 五年間、研究院長秘書と同窓会事務局書記を務めていただいた板野嘉代子さんは、二〇一七年三月末で退職なさいます。文学部のわがまま連中が、大変お世話になりました。新しい職場での御活躍をお祈りします。
 前任の坂上康俊教授(日本史学)の後を、久保智之(言語学)が務めております。副研究院長の佐伯弘次教授、清水和裕教授に日々支えられて、なんとか務めている次第です。引続き、伝統的なディシプリンを守りつつ、必要な改革を進めていきたいと思います。今後とも、九州大学文学部の御支援をお願い致します。皆さまの御健勝をお祈りしつつ筆を擱きます。

 (くぼ ともゆき 一九八一年卒業 言語学)

【九州大学文学部同窓会お問い合わせ先】

  • 九州大学文学部同窓会
  • 住所:〒812-8581 福岡市東区箱崎6-19-1 九州大学文学部内 文学部同窓会事務局
  • E-MAIL:bundo@lit.kyushu-u.ac.jp
ページの上部に戻る