研究室だより 平成16年度

         

 卒業生の皆様,いかがお過ごしでしょうか。平成十六年度のインド哲学史研究室の近況を岡野がお知らせします。
 まず研究室の学生の数が倍増したことをお知らせします。今年度は春にあらたに学部生が三名入りました。さらに研究生が一名入ってきました。一度に四人の新しい顔ぶれが加わったことで,研究室は活気づいています。四人の名前をあげますと,中西義昭君,早坂桜さん,横山佳奈さん(以上学部生),池ノ内千恵子さん(研究生)です。皆,一生懸命に学習にとりんでいます。
 また今春に源重浩さんが修士号を得て博士課程に進学しました。現在の研究室は博士課程二名(原田泰教君,源重浩さん),修士課程一名(渕上由香利さん),学部四年生一名(山崎一穂君),学部三年生一名(菊地加名美さん)に上記の四名を加えた,合計九名です。昨年度まで助手を勤めた宮本均さんは現在求職中です。どうか彼が研究できるポストに就けますよう,先輩方もどうか御支援をお願いします。彼は二月に結婚したばかりです。
 学部四年の山崎一穂君は大学院受験の準備をしながら卒論を書いています。卒論のテーマは『アヴァダーナ・カルパラター』九七章の翻訳研究です。また博士論文を原田君が,修士論文を渕上さんが今書いていますが,完璧を期して来年度まで完成を延ばすことになりそうです。
 本年度の授業について御報告します。岡野は前期に「インド仏教の創世記神話」(小乗諸部派の聖典伝承を比較),「インド仏教の文献と思想」(特に原始仏教を解説),「『ブッダチャリタ』とインド仏教文学」(梵文の第五章の訳読),「古典チベット語中級」(ミヒャル・ハーンの教科書の後半),後期に「インド大乗仏教経典をよむ」(大乗仏教とは何かを考察),「『ダンマパダ』の思想」(パーリ文と『ウダーナヴァルガ』の梵文・蔵文を比較),「『ブッダチャリタ』とインド仏教文学」(梵文第六,七章の訳読),「サンスクリット語とチベット語の対照研究」(『アヴァダーナ・カルパラター』のスマーガダーの章の梵文蔵文を訳読),「サンスクリット写本読解」(インド仏教文献学の方法を解説)の授業を行いました。また本年度は非常勤の授業に針貝邦生先生,阿理生先生,宇野智行先生に来ていただいています。針貝先生は「クマーリラの聖伝書論」(『タントラヴァールッティカ』聖伝章),阿先生は「インド唯識思想研究」(『摂大乗論』第二章),宇野先生は「ジャイナのサンスクリット文学」(様々な説話・偉人伝・聖者伝のテキスト)の演習をしてくださいました。
 今年あったことをふりかえりますと,四月に針貝邦生先生の御好意で,佐賀大と統合した佐賀医科大で廃棄処分になった蔵書のうちの印哲に関係する書籍多数を,九大印哲が戴くことができました。針貝先生,ならびに本の搬出を手伝ってくれた原田君,菊地さん,中西君に厚く感謝いたします。
 また七月末に西日本インド学仏教学会の第十五回大会が福岡で開かれました。福岡のウェル大濠荘が会場となりました。7名の発表と約50名の参加者があり,学会事務を院生の原田君と渕上さんが滞りなく取り仕切ってくれました。
 最後に来年度に向けて動きだしている人事について御報告します。今年四月から岡野が教授になり,空いた助教授の席を公募することになりました。そこで九大印哲の将来を担うにふさわしい,力ある方に助教授に来ていただくため,積極的に他大学の印哲の研究者たちにも公募情報を知らせ,ウェブ・サイトでも掲示し,九月に公募を締め切りました。現在選考中です。きたる四月から新しい助教授がフレッシュな,力に満ちた授業を開始されるでしょう。
 今年は大学が法人化した年でした。どの講座の予算も昨年よりも大きくカットされ,印哲講座もその例外ではありません。しかし学問にとって真の危機は予算の削減にあるのではありません。もしインド学という,文献学を主体にした学問が,何か饐えた臭いのする,閉塞感の漂うような学問になってしまったならば,その時が本当の危機なのです。そうならないように学問が自らを根底から刷新する意欲をもち,哲学,文化人類学,宗教学,神話学などの他の学問領域との交流をより強めてゆかねばなりません。インド学の研究者は自分の専門領域だけに引き籠ってしまわず,絶えず視野を広げてゆくように努力しなければなりません。九大印哲はインド学を土台にしながら,南アジア学,東南アジア学やユーラシア文化学も学べるような講座でなければならないと思っております。なにかと社会に直接役立たない学問の典型としてとりあげられるインド学ですが,皆さんも御承知の通り,学問としてのインド仏教文献学は日本が世界をリードする立場にあり,日本が誇りうる学問の一つです。またインド哲学という学問も,これをうまく育てれば,21世紀に日本が世界に向けて発信する「アジア的思考による哲学」の土台となる可能性があります。この未来ある学問をなんとしても維持し発展させてゆかねばならないと思っております。
 卒業生・修了生の皆様は,これからもどうか本研究室への暖かい御支援をお願いいたします。皆様の御健康,更なる御活躍をお祈りしつつ,ここに擱筆させていただきます。(2004年11月 岡野潔)