閑山子LAB

九州大学大学院人文科学研究院教授・川平敏文のページです。



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大学院進学という選択肢(文学部学生向け)

「大学院、ちょっと興味はあるけど、行ってどんなメリットがあるの?」と思っている、文学部学生の皆さんは多いかと思います。そこで私の考えを簡単にまとめてみました。進路を選択するさいの、参考にしてください。《上のタイトルをクリックするとPDFがダウンロードされます》

研究・教育

大学院担当  九州大学大学院人文科学府言語・文学専攻
学部担当   九州大学文学部人文学科文学コース
取得学位   博士(文学)
専門分野   日本近世文学・思想史
連絡先    kawahira◆lit.kyushu-u.ac.jp
ブログ    閑山子余録

詳しい研究者情報はこちら



■研究について

 専門は、江戸時代の思想・文学。特に、学問(漢学や和学)、およびその周辺で繰り広げられた文学的営為に関心があります。
 これまで主に取り組んできたのは、江戸時代における『徒然草』の注釈、および受容をめぐる諸問題です。『徒然草』という作品の〈読まれ方〉を調査して、そこから江戸時代に生きた人々の考え方や、感じ方の特徴を炙り出そうとする研究です。
 この研究テーマは、いわば私のライフワークと言えるものですが、そこから展開したものとして、十七世紀の時代思潮(思想・文学のベースとなっている基本的な考え方)、江戸時代における老荘思想の受容、室鳩巣から松平定信へとつながる十八世紀の「保守的」言説の再検討、といったテーマに取り組んでいます。
 研究姿勢としては、その時代に降り立ち、その時代の目で問題を考えていくことを理想としています。そのためには、ジャンルを問わず、なるべく多くの「和本」(明治以前の和装本。大半が活字化もされていない)に接し、その時代の言説に親しむしかありません。こういった、いわば基礎トレーニングの実践を大事にしています。下記はその一例です。

■主宰・参加している文献調査・研究会(公的なもの以外)

◆雅俗文庫調査

 九州大学附属図書館所蔵の「雅俗文庫」(中野三敏氏旧蔵)の書誌調査。2010年スタート、2022年完了。

◆九州大学貴重書室調査

 九州大学附属図書館貴重書室に収蔵されている国書の悉皆的調査。分類目録を作成すべく、基本的に週一回、近世専攻の大学院生といっしょにやっています。2022年スタート。

◆手紙を読む会

 九州近隣の研究者が集まって、江戸時代の書簡を解読・注釈する研究会。私が大学生になる前から始まっているから、かれこれ30年以上も続いているのではなかろうか。月一回。書簡の読解は、くずし字読解能力の最高レベルが要求されるので、ここで「読み」の基礎が鍛えられます。

◆九州近世文学研究会

 だいたい手紙を読む会と参加者は重複していますが、こちらは各自の研究テーマについて発表する会。年二回。歴史・思想系の研究者を招いたり、外部の研究会とのコラボも行ったりしています。2014年は、「書物・出版と社会変容」研究会と共催しました。

◆近世随筆研究会

 科研費・基盤(B):「「近世随筆」の領域横断的研究」(研究代表者:川平敏文)による研究会です。2022年度から4年間にわたって実施します。将来的には書籍化も考えています。

◆長崎先民伝研究会

 長崎の『先哲叢談』ともいうべき、『長崎先民伝』を読む研究会。隔月一回程度開催し、『長崎先民伝註解――近世長崎の文苑と学芸』(勉誠出版、2016年)という本に結実しました。

◆雅俗の会

 中野三敏先生門下生が中心となって立ち上げた同人組織。会誌『雅俗』を年一回発行。10号をもって休刊していましたが、2011年に復刊しました。編集委員会を組織し、厳正な査読を行っています。また毎号発刊後に合評会を開き、論文の内容や今後の編集方針などについて、忌憚なく意見交換しています。
 →「雅俗の会」公式ブログ

■教育について

 授業ではよく、近世文学はいわば「ハイパー古典」だと言っています。近世文学で使われている言葉は基本的に「文語」です。このことに象徴されるように、近世文学はいわゆる古典的な教養や表現に多くを拠っています。私たちが「国語」の一部として古文・漢文を習ったのとは違って、そういった「古典」こそが、当時の「現代文」の模範だったのです。私の好きな『徒然草』も、その一つでした。
 よって近世文学を研究するためには、『源氏物語』や『徒然草』といった日本の古文はもちろん、中国の『論語』や杜甫・李白の漢詩まで、和漢の古典を広く知っておく必要があります。ちょっと大変なようにも聞こえますが、考え方を変えれば、近世文学を研究すれば、必然的に、そういった和漢の古典を読解し、鑑賞する力が身につくということです。よって、たとえば高校の国語教師のように、古典についてのオールマイティーな力が必要な人には、うってつけの分野ではないでしょうか(というのが、私の誘い文句です)。しかし、これは冗談でも何でもなく、「ハイパー古典」としての近世文学を通じて、広くその面白さを伝えられる人を育てることが、私の願いです。
 そのためには、まずは文献を正確に読めないと意味がありません。正確に読むとは、先入観を廃して、テキストを丁寧に読むということです。テキストの翻字から始まり(活字があったとしても、必ず原本からもう一度やり直します)、一言一句をないがしろにせず、その典拠や表現を吟味します。そして最後に現代語訳。こういった一連の訳注作業をしっかりとこなし、文献をできる限り正確に読むための訓練を、私は重視しています。自分勝手な読みでよいのならば、大学で勉強する必要はないわけです。

■授業の概要

 講義は、基本的に各年度、概論的なテーマ(半期)と各論的なテーマ(半期)の二本立てで行っています。
 概論的なものは、和歌・俳諧・漢詩文・小説・芸能の中から一つ。各論的なものは、これまで、「徒然草受容史」「老荘受容史」「江戸の文章スタイル」「「もののあはれ」の文学史」「忠臣蔵と江戸文化」「近世文学と和漢」「伝記研究入門」「異なる価値観と対話」「古典再生史」などのテーマで話をしました。
 演習については、以下の通りです。

◆大学院演習

 山岡元隣『宝蔵』の訳注。2010年スタート。その成果は『雅俗』11号以降に連載中。
 都の錦『元禄大平記』の訳注。2016年スタート。

◆学部演習

 浮世草子や俳諧など、色々なジャンルの作品を取り上げて訳注を行っています。これまで取り上げたのは、『諸道聴耳世間猿』『世間娘気質』『しぶうちわ』『貞徳紅梅千句』『伽婢子』『猿蓑』『浮世物語』など。
 また、各自の興味にしたがってテーマを選び、その研究結果を発表する時間も設けています。

◆木曜会

 各自の研究テーマについて発表する会です。月一回。院生の部、学部生の部と二部構成ですが、だいたい院生は学部生の部にも出席します。学部生は卒論作成準備をしている四年生が参加します。木曜の午後に行っていたのでこの名称がありますが、必ずしも木曜に行っているわけではありません。



著書・編著

◆著書

『兼好法師の虚像 偽伝の近世史』平凡社 平凡社選書 2006
『徒然草の十七世紀 近世文芸思潮の形成』岩波書店 2015
『徒然草 無常観を超えた魅力』中公新書 2020
  → サポートページへ

◆編著

『近世兼好伝集成』平凡社 東洋文庫 2003
『東アジアの短詩形文学』(アジア遊学) 勉誠出版 2012(静永健と共編)
『長崎先民伝注解 近世長崎の文苑と学芸』勉誠出版 2016(若木太一、高橋昌彦と共編)
『盧氏文書 盧草拙資料集』 雅俗研究叢書 雅俗の会 2019



電子書庫

 当ラボにて作成した古典籍テキスト・データを公開します。ダウンロードは自由ですが、翻字の正確さについては、必ずしも万全を期しているものではありません。
 あくまでも調査用・作業用データとしてお使いいただくことを前提としていますので、論文等で引用するときは、必ず原本あるいはそれに準ずる資料(影印本等)でご確認頂きますよう、お願い申し上げます。
 なお、1~4は、科研費・基盤(C)「室鳩巣の和文著述とその流布・影響についての研究」(代表:川平敏文、課題番号26370241)、5~7は科研費・基盤(C)「書簡・雑記を中心とした17~18世紀学芸史の研究」(代表:川平敏文、課題番号18K00320)、8は科研費・基盤(B)「「近世随筆」の領域横断的研究」(代表:川平敏文、課題番号22H00638)の研究成果の一部です。


1.駿台雑話

2.駿台随筆

3.六諭衍義大意

4.鳩巣小説

5.文会雑記

6.蘐園雑話

7.兼山秘策

8.膾餘雑録[白文]



研究室員紹介

陳 笑薇(CHIN,Shoubi)

博士後期課程在学
「近世俳壇と老荘思想」
近世前期の俳壇に焦点を合わせ、特に蕉風俳論と老荘思想の関連に注目し、研究している。これまでに「風雅の誠」の理念と老荘思想の関係、松尾芭蕉における老荘の注釈書(『荘子鬳斎口義』など)の影響などについて、考察を行った。今後は、近世俳壇における老荘思想受容の特殊性などの問題を中心に、研究を進めたい。

王 自強(OH, Jikyo)

博士後期課程在学
「市河寛斎研究」
近世後期の詩壇に注目し、主に江湖詩社の盟主市河寛斎を研究している。これまでに、市河寛斎と六朝宮体詩の関係について考察を行った。今後は、市河寛斎の詩論を併せて詠物詩の研究を進めつつ、寛斎の考証学および詩集の編纂事業にも触れる。なお、市河寛斎をめぐって江湖詩社と近世後期詩風革新も再検討したい。

陳 嘉励(CHEN,Jiali)

修士課程在学
「山東京伝における中国白話小説の受容」
近世の小説、主に山東京伝を研究している。これまでに、『水滸伝』『通気粋語伝』『忠臣水滸伝』という三点の作品の比較を通して、『忠臣水滸伝』形成における『通気粋語伝』の役割について考察を行った。今後は、文芸ジャンルを問わず、京伝作品における中国白話小説受容の問題を考えていきたい。

野尻 萌果(NOJIRI,Moeka)

修士課程在学
「契沖の古典研究と和歌実作」
近世初期に古典学者として活躍した契沖の歌詠について研究している。これまでに、真言宗僧侶である契沖の仏教観と和歌の関係性について考察を行った。今後は、契沖の古典研究や歌論が和歌実作にどのように影響しているのかについて、研究を進めたい。


◇過去の室員◇

吉田 宰(YOSHIDA, Tsukasa)

博士後期課程修了(令和元年度):尾道市立大学講師
「近世中期を中心とした分野横断的研究」
近世中期を中心に、思想と文学の両面にわたって研究している。とくに、天文暦学や本草学といった、今日でいう自然科学の諸領域との関わりから考察を進めている。これまでに本草学者の平賀源内・後藤梨春、天文暦学者の西村遠里などに関する研究を行った。
「西村遠里研究」(修士論文)
「近世中期の思想と文学―天文暦学・本草学との関わりから―」(博士論文)

村上義明(MURAKAMI, Yoshiaki)

博士後期課程修了(平成30年度):熊本学園大学准教授
「北村季吟『和漢朗詠集註』考」(修士論文)
「近世和漢朗詠集注釈史論考」(博士論文)

河野理菜(KONO, Rina)

修士課程修了(令和2年度)
「貝原益軒と武士教育」
17世紀福岡藩の儒学者である貝原益軒の研究を行っている。卒業論文では益軒の武士向け教訓書と日記を精読し、武士に対する教育について考察した。今後も益軒が藩儒として、武士教育をどのような思想で、どのように行ったか調査・考察する予定である。

施 超智(SHI, chaozhi)

修士課程修了(令和2年度)
「馬琴前期読本の研究」
近世後期の読本作者である曲亭馬琴の研究を行っている。卒業論文では文化二年刊行された『稚枝鳩』を典拠・『石点頭』との比較を行い、独自の構成について考察をした。現在は、馬琴の前期読本の人物像について研究している。

劉 書縁(RYU, Shoen)

修士課程修了(令和2年度)
「上田秋成の研究」
江戸後期の国学者上田秋成の研究を行っている。卒業論文では、読本作品『雨月物語』を巡って、小論を書いた。現在は、『癇癖談』を中心に、いくつかの関連作品を取り上げつつ、秋成の執筆心境や人間関係に着目して研究を進めていきたい。

大牟田拓海(OOMUTA, Takumi)

修士課程修了(平成30年度)
「振鷺亭論:中本型読本から人情本まで」(修士論文)

李 静怡(LI, Jingyi)

修士課程修了(平成29年度):アリゾナ大学大学院博士後期課程在学
「江戸中後期における李漁の受容」(修士論文)

中山成一(NAKAYAMA, Seiichi)

修士課程修了(平成27年度):筑紫女学園高等学校教諭
「武富廉斎の研究:その思想と生涯」(修士論文)

三國恵里(MIKUNI, Eri)

修士課程修了(平成29年度)
「業平発憤説の系譜」(修士論文)

脇山真衣(WAKIYAMA, Mai)

修士課程修了(平成27年度)
「近世中期における庶民教導家の研究:中村三近子を中心に」(修士論文)

平山聖悟(HIRAYAMA, Shogo)

修士課程修了(平成25年度):西南学院高等学校教諭
「都の錦の研究:噺本『軽口はなし』から見る述作姿勢の再検討」(修士論文)

趙 晶(ZHAO, Jin)

修士課程修了(平成25年度)
「京伝の読本と中国善書:『明心宝鑑』を中心に」(修士論文)

工藤いずみ(KUDOU, Izumi)

修士課程修了(平成24年度)
「七代目市川団十郎の研究」(修士論文)



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