東アジアにおける農耕の拡散・受容と牧畜社会生成過程の総合的研究
(令和元年~5年度 科学研究費補助金 基盤研究(S))


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研究内容

・2023年9月17日~27日:モンゴル国オブス県を中心とした遺跡踏査
 昨年度調査のアブダライ・ヒャサ遺跡では青銅器時代の墓を集中的に調査し、西方に分布するアファナシェボ文化と類似した墓を確認するなどの成果を上げました。こうした西の地域との繋がりをさらに明確にする目的で、本年度はモンゴル国の西北端に位置するオブス県の遺跡踏査を行いました。本調査はモンゴル科学アカデミー考古学研究所との共同で、研究所のアムガラントゥグス氏とバトボルド氏が同行しました。
 Tarialanソム(村)から河を西に遡ると、数キロにわたって、青銅器時代から突厥時代に至る墓が群をなしている段丘(Khalkhaityu deaj遺跡)があります。ヘレクスールや円形・方形墓(いずれも青銅器時代)も数多くあり、中心から十字の放射を描く巨大なヘレクスールを見ることができます。また、青銅器時代の墓域の中央には数百メートルに渡る2m幅の道のような遺構が認められ、ある部分は1m程の間隔で格子状に区切られているようです。こうした特徴を持つ墓や遺構は、モンゴリア西部の特徴かもしれませんが、未解明の部分がまだまだ多くあります。本調査では、これらの遺構を実地で確認・記録するとともに、ドローン撮影を行い、全体の地形や遺構の配置について検討しました。

左から:車で河を遡ります・十字を持つ巨大ヘレクスール・遺跡全景・GPSによる遺構の記録・道のような遺構
 
 青銅器時代・初期鉄器時代の墓域の隣には、突厥墓が数多く分布します。中にははっきりした顔を持つ石人を伴ものもあり、石人の中には、青銅器時代の鹿石を再利用したものも含まれています。また、墓域のすぐ傍の川岸には、冶鉄の炉跡が数多く確認されました。
左から:石人・突厥墓・崖断面に現れた冶鉄炉の記録(右:宮本教授、左:福永助教)

 モンゴル西北では青銅器時代墓に加え、チャンドマニ文化(前1千年紀前半・初期鉄器時代)の墓が認められます。外見は青銅器時代の墓に類似していますが、石列の囲いの中に積石を複数置く場合や、囲いが付加される場合があり、多くは傍に8個の石からなるストーンサークルを配置します。また、内部は木槨構造で複数人が埋葬されます。Sagilソムの北、ロシアとの国境近くにある墓群では、チャンドマニ文化の墓を多く見ることができます。丘の斜面の低い部分から、高い部分へ向かって一列に並んでおり、青銅器時代の円形・方形墓が一定の高さ以上の斜面に築かれることが多いのと、対照的です。
左から:列状にならぶチャンドマニ文化の墓(右奥は考古学研究所による発掘地点)・研究所のバトボルド氏(左)による説明を受ける宮本教授(右)

 チャンドマニ文化は、山地アルタイのパジリク文化や、南シベリアのタガール文化と類似した要素を持っており、西との関係が強くうかがわれます。こうした関係が、青銅器時代あるいは青銅器・鉄器にどのように現れるか、モンゴリア中部や東部でも見ることができるのかどうかが、課題となりそうです。

 オブス県の踏査からの帰路、昨年度調査を行ったザブハン県で、巨大なヘレクスール(Tariatin amnヘレクスール)や岩画を確認しました。岩画には、鹿石と同様の文様が薄く刻まれています。また、ハラホリン(ウブルハンガイ県)では、カラコルム博物館と科学アカデミー考古学研究所による、匈奴墓の発掘調査を見学しました。
左から:Tariatin amnヘレクスール・岩画のある渓谷・岩画(鹿)・ハラホリンでの匈奴墓の発掘調査



・2023年1月18日~22日:モンゴル科学アカデミー考古学研究所における人骨調査
 メンバーの鳥取大学 岡崎健治助教により、本研究の発掘調査で出土した人骨、および科学アカデミー考古学研究所所蔵の人骨の形質調査が行われました。モンゴル全体や他地域との比較によって、人の動きの解明に繋がる他、古病理学的特徴やそれに基づく食環境が明らかになることが期待されています。
調査の様子

・2022年12月9日~12日:モンゴル科学アカデミー考古学研究所における石器調査
 本科研メンバーの弘前大学 上條信彦教授による石器調査の主な対象となったのは、磨盤・磨棒といった上下セットの食料加工具です。これらの形態や使用痕を詳細に分析することにより、当時の食料加工技術の解明の他、中国の華北地域における同種の石器との比較により、両地域間の関係も明らかになることが期待されます。

調査の様子


・2022年7月30日~8月11日:モンゴル国ザブハン県アブダライ・ヒャサ(Avdalai・Khyasaa)遺跡における発掘調査
 アブダライ・ヒャサ遺跡(第1地点)では、2019年に2基の墳墓(8・15号墓:共に方形敷石墓(Munkh-Khairhan文化))の調査を行い、前2千年紀(青銅器時代)における墓制変化や、形質に関する貴重な成果が得られました。同地点には30基以上の類似した墓が認められ、継続的に調査を行うことにより、墓同士の関係を探るなど、研究のさらなる深化が予想されます。こうした中、モンゴル科学アカデミー考古学研究所との共同で行われた本年度の調査では、南北に並ぶ4基(北より9・31・11・12号墓)と東側の1基(17号墓)、さらに石堆と呼ばれる祭祀遺構(4号墓-1、18号墓-1)を発掘し、人骨・動物骨や土器が見つかりました。
 特に興味深いのが、南に位置する12号墓(直径約9m)で、やや異形なこと、特徴的な文様を持つ土器を伴うことから、古い段階(アファナシェボ文化併行)での築造が予想されています。発掘の結果、西北側の縁石が良く残っており、縁石内部の斜面上に板石を丁寧に重ねて形成された積み石を持つことがわかりました。さらに、副葬品を持たないモンゴル青銅器時代の墓としては珍しく、土器に加えて動物骨が出土しました。年代測定の結果が待たれます。

12号墓の発掘状況(上段左より:発掘前、四分法での表土除去、表土除去後、板石堆積状況、検出状況。下段:埋め戻し復元後)

 9・31・11号墓はいずれも円形を呈します。11号墓は直径約11mで墓壙が2重に囲まれる、円形ヘレクスール。その北側で互いに隣接する9・31号墓は、1重の縁石を持つ、径5m程度の円形墓です。いずれも縁石内を積石で充填しています。いずれでも頭蓋を含む人骨が検出されました。空間的に近く、南北に並ぶため、年代・形質的にどのような関係にあったのかが注目されます。
9号墓の発掘状況(左より:発掘前、四分法での表土除去、表土除去および蓋石検出状況、人骨検出状況、完掘後(下側は31号墓))
31号墓の発掘状況(左より:表土除去後、蓋石検出状況、墓壙検出・掘り下げ、人骨検出状況、完掘後)
11号墓の発掘状況(左より:表土除去後、蓋石検出状況、人骨検出状況、完掘後)

 以上の4基よりも東側に位置する17号墓は、四隅に目立つ立石をもつ、いわゆるサクサイ・タイプの方形墓です。一辺約6mの正方に近い形で、縁石は1重です。表土から露出する部分でも、比較的明瞭な形を残し、蓋石の残存状況も良好でしたが、人骨の検出には至りませんでした。
17号墓の発掘状況(左より:発掘前、表土除去後、蓋石検出状況、墓壙検出状況)

 モンゴリアの青銅器時代の遺跡によく見られるように、本遺跡でも、墓葬に伴う祭祀址と考えられる遺構が多く知られています。その一つとして挙げられるのが、特に大型のヘレクスール(墓)に見られる、石堆や衛星などと呼ばれる遺構群です。これらは、直径2m程の石積遺構であり、縁石の内部から動物骨がしばしば発見されます。1つのヘレクスールにつき、特定の方角に数基~数千基が確認され、長年にわたって祭祀活動が行われたと考える見解もあります。本調査では、方形のヘレクスール(4号墓)に伴う1基、円形ヘレクスール(18号墓)に伴う1基を発掘し、いずれからも動物骨を得ました。これによって、遺構の年代が判明するとともに、当時の祭祀活動の実態が明らかになることが期待されます。
4号墓1号石堆の発掘状況(左より:発掘前(左奥が4号墓本体の積石)、表土除去後、動物骨検出状況)
18号墓1号石堆の発掘状況(左より:発掘前(奥が18号墓本体の積石)、動物骨検出状況、完掘後)
発掘作業風景
発掘調査参加者集合写真


・2019年10月27日~31日:山東省烟台市博物館における農耕関連遺物の調査

 烟台市博物館において、大仲家遺跡(新石器時代)の土器、石器の調査が行われました。

研究所における調査風景
上段左から、三阪一徳助教(手前)による土器製作技術の記録観察/小畑弘己教授による土器圧痕観察/上條信彦准教授(手前)による石器デンプン採取、欒豊実教授(山東大学)による土器観察
下段左から、欒教授、三阪助教らによる土器観察と討論/宮本(手前)による石器実測


・2019年9月19日~22日:モンゴル科学アカデミー歴史学・考古学研究所における人骨調査
 
 下記発掘調査における出土人骨ほか、研究所所蔵人骨の調査が、岡崎健治助教、米元史織助教により行われました。併せて、試料のサンプリングも行いました。

研究所における調査風景


・2019年8月26日~28日:モンゴル科学アカデミー歴史学・考古学研究所における整理調査

 下記発掘調査において得た資料の洗浄、整理、記録資料の確認を行いました。また、上條信彦准教授によって研究所所蔵石器の使用痕分析、残留デンプン分析も行われました。

研究所における整理・実測風景



・2019年8月10日~22日:モンゴル国ザブハン県アブダライ・ヒャサ遺跡における発掘調査
  (九州大学アジア埋蔵文化財研究センター・モンゴル科学アカデミー歴史学・考古学研究所共同調査)

 モンゴル高原各地にはヘレクスールや板石墓、鹿石といった石造の遺跡、遺構群がみられます。これらは紀元前1~2千年紀以前に遡るとされ、文献では知られない当時のモンゴリアの歴史動態を知るうえで欠かせない資料となっています。モンゴル国西北部に位置する、ここ、アブダライ・ヒャサ遺跡で私たちは、ヘレクスールの中でも方形石敷墓という新たな型式の墓を2基発掘しました。15号墓は大型で、木棺墓と土壙墓が検出され、土壙墓からは銅製耳飾、木質盃が発見されました。また、8号墓からは木棺墓と保存状態の極めて良好な人骨1体を検出しました。



15号墓における銅製耳飾検出/8号墓における蓋石上げの作業/8号墓における人骨検出/15号墓における墓壙発掘

羊の解体の様子/地形測量調査風景/15号墓における実測風景/15号墓における発掘風景

アブダライ・ヒャサ遺跡における初日の踏査風景/アブダライ遺跡第4地点ヘレクスール(写真のものは今回未発掘)/アブダライ遺跡8号墓(右下)、15号墓(中央)発掘風景



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