文学部 人文学科 哲学コース
インド哲学史 専門分野
専門分野科目 (単位数 2)
選択科目
対象学年: 2年生 3年生 4年生
対象学部等:
インド哲学史講義 I
History of Indian Philosophy (Lecture I)
講義題目  中論研究
准教授 片岡 啓
科目ナンバリングコード: LET-HUM2211J
講義コード: 16054102
2016 前期
毎週 木曜2限
箱崎 203 教室
J科目 (日本語, 日本語)
更新情報 : 2016/3/8 (08:55)
授業の概要 紀元後2世紀頃に著された龍樹(りゅうじゅ)の『中論』(ちゅうろん).サンスクリット語の詩節で著された本著は,爾来,インド・チベット・中国・日本の多くの人を魅了してきた.実際,多くの註釈が残されている.数ある仏教論書の中でも一二を争うベストセラーと言って良い.本邦でも奈良の南都六宗のひとつ,三論宗(元興寺・大安寺)は『中論』(漢訳)をメインテクストに据えていた.その魅力は,8X4=32音節の各短句に込められた一個一個の論理の鋭さにある.龍樹を踏まえずに大乗仏教の空(くう)の思想は成り立たない.相手の論理を突き崩す龍樹の批判的態度は「帰謬(きびゅう)論証」として知られている.ダライラマで有名なチベット仏教(のゲルク派)も,顕教の根幹は中観(帰謬論証派)の教学に置いている.その仏教論書の雄にダイレクトに切り込もう,龍樹の胸を借りよう,というのが本講義の狙いである.これまでの和訳・英訳は,サンスクリット原典に照らすと,残念ながら信頼できないものが多い.サンスクリットと読み比べてみると,びっくりするくらい,いい加減である.サンスクリット原典訳を謳いながらも,むやみに漢訳語に引きずられているものも多い.本講義では,最も信頼できる最新の英訳(ネット公開されている桂紹流・マークシデリッツ訳)をベースに,一句一句を丁寧に解釈・解説していく.サンスクリットの予備知識,仏教の予備知識は必要ない.仏教学初心者でも分かるよう,ゆっくりと進めていく.その中で,仏教書を読むのに必要な知識も身につくよう配慮する.「仏教書は今まで読んだことがない」という学生でも分かる仏教学入門である.授業は,サンスクリット原典の英訳に即して,講義形式で進めていくことを基本とするが,眠くならないよう,学生参加のディスカッションも間に入れて進めていきたい.量を読み進めるよりは,質的な理解の前進を第一目標とする.細かい知識の集積よりも,考え方・発想の把握に努める.龍樹の議論の狙いは,一貫して,我々が前提としてしまう「固定的な本質」という観念を否定することにある.あらゆるものが固定的な本質を欠いていること,それが空(くう)ということであり,また,無我(むが),すなわち,無自性(むじしょう)ということである.龍樹の論書は,「仏教書」というイメージから我々が持ちがちなステロタイプからすると,驚くほどにドライである.抹香臭い「人生哲学の説法」を期待するなら,それは的外れである.「世のあはれ」などという湿り気は本書には全くない.ややもすれば無味乾燥なドライなロジックが延々と展開される.インド的な(しつこいくらいの)議論の世界がそこには広がっている.紀元後2世紀の龍樹が何を問題としていたのか,その背景を踏まえながら,仏教学の基礎中の基礎,空(くう)の哲学の核心に共に迫りたい.龍樹の哲学を理解したとき,我々は,般若経に説かれる「色即是空」の意味を知的に理解できるはずである.仏教の根本教義である無我・縁起について,龍樹がどのように受け止めていたのか,当時に溯って考えなおしたい.

(This lecture course focuses on Nagarjuna's masterpiece Mula-madhyamaka-karika in order to provide an overview of the basic perspectives and concepts of "emptiness" and "middle path" in the Buddhist philosophy.)
キーワード :
履修条件 :
履修に必要な知識・能力 : サンスクリット語の知識は前提とはしていない
特記事項
遠隔/対面 Moodle 情報
対面授業
リアルタイム-オンライン授業
ハイブリッド授業(対面+オンライン)
オンデマンド型授業
課題提出型授業

教職 :
資格 :
到達目標
かなり優れている 優れている 及第である 一層の努力が必要
B_A-c [言葉の理解]
「言葉」に対する自覚的かつ反省的な関わりを通じて、人間存在への理解を深める。
文献中に出てくる概念を正確に理解しており,それを自身の言葉で説明できる. 文献中に出てくる概念を十分に理解している. 文献中に出てくる概念が文脈に即して理解できる. 一個一個の概念について,更なる理解が必要.
B_A-d [資料の理解]
史資料・文献・作品の分析と解釈、および実地調査などに基づいて、世界における文化・歴史・社会の多様性と共通性を理解し説明できる。
著者の主張を正確に理解し,それを自身の言葉で説明できる. 著者の主張を十分に理解している. 著者の意図を文脈に即して理解している. 著者の意図を理解していない.
B_B1-a [古典の読解]
長い文化的伝統のなかで人類が生み出してきた知的所産である「古典」を、厳密に読解する能力を身に付けることができる。
文献の成立背景を踏まえて,古典の論理を正確に理解し,また,それを自身の言葉で説明できる. 古典の論理を正確に理解している. 論理を文脈に即して理解できている. 論理展開を十分に理解していない.
B_B1-b [専門文献の解釈]
専門分野の基本文献を精確に解釈、分析することができる。
仏教学に必要な知識を十二分に身に付ける. 仏教学に必要な知識を十分に習得する. 仏教学に必要な基礎知識を身に付ける. 仏教書を読むのに必要な知識が不十分である.
B_B1-g [論理的思考能力]
文献などの収集能力およびフィールドや実験などの研究能力と、それを系統立てて整理する論理的思考能力を、各研究分野と中等高等教育分野のほか、様々な職種へ活用できる。
文献が展開する論理を正確に追うことができ,自分の言葉でそれを説明できる. 文献が展開する論理を理解している. 文献の論理の主眼を理解している. 文献が展開する論理について理解が十分に追いついていない.
B_B2-d [専門的思考方法]
批判的な討論を通して、自らの意見をより客観的視点から組み立てる姿勢を養うことができる。
インド的な議論の展開に十二分に習熟する. インド的な議論の展開に十分に習熟する. インド的な議論の展開に追いついていける. インド的な議論展開について理解が追いつかない.
九州大学文学部ディプロマ・ポリシー   九州大学人文科学府人文基礎専攻ディプロマ・ポリシー
九州大学人文科学府歴史空間論専攻ディプロマ・ポリシー   九州大学人文科学府言語・文学専攻ディプロマ・ポリシー
九州大学文学部哲学コース・カリキュラムマップ   九州大学文学部歴史学コース・カリキュラムマップ
九州大学文学部文学コース・カリキュラムマップ   九州大学文学部人間科学コース・カリキュラムマップ
授業方法
授業形態(項目) 授業形態(内容)
講義
外国語演習
原典資料演習
実習/フィールド調査
Problem-Based Learning (問題発見・解決型学習)
学生のプレゼンテーション
Moodle の使用
学外実習
野外実習

テキスト : 各自『インド学チベット学研究』 掲載英語論文Mark Siderits & Shoryu Katsura Mūlamadhyamakakārikā をダウンロードしておくこと
http://www.jits-ryukoku.net/data/09/ick09_siderits-katsura.pdf
http://www.jits-ryukoku.net/data/12/ick12_siderits-katsura.pdf
http://www.jits-ryukoku.net/data/14/ick14_siderits-katsura.pdf
参考書 : 全体は一書にまとめられて刊行されている.お金に余裕のある人はこちらが便利.
Nagarjuna's Middle Way: Mulamadhyamakakarika (Classics of Indian Buddhism) Paperback – June 11, 2013 by Mark Siderits (Author), Shoryu Katsura (Author)
授業資料 : http://www.jits-ryukoku.net/ick_table.html

授業計画 (授業計画は予定であり、学びの進捗に合わせて変更することがあります。)
進度・内容・行動目標等 講義 演習・その他 授業時間外学習
1 講義全体のイントロダクション
2 中論第1章の解読
3 中論第1章に関するディスカッション
4 中論第2章の解読
5 中論第2章に関するディスカッション
6 中論第3章の解読
7 中論第3章に関するディスカッション
8 中論第4章の解読
9 中論第4章に関するディスカッション
10 中論第5章の解読
11 中論第5章に関するディスカッション
12 中論第6章の解読
13 中論第6章に関するディスカッション
14 総括
15 総括および授業内小テスト

成績評価
観点→
成績評価方法
B_A-c
[言葉の理解]
B_A-d
[資料の理解]
B_B1-a
[古典の読解]
B_B1-b
[専門文献の解釈]
B_B1-g
[論理的思考能力]
B_B2-d
[専門的思考方法]
備考(欠格条件、割合等)
小テスト 50%.最終回に授業内で行う.
授業への貢献度 50%.毎回提出してもらう質問・感想で算出する.

GPA評価
A B C D F
授業を通じて、総じて「かなり優れている」に相当する活動を行った。 授業を通じて、概ね「優れている」を超える活動を行った。 授業を通じて、「及第する」に相当する活動を行った。 授業を通じて、総じて「及第する」には達しないものの、それに近い活動を行った。 授業を通じて、「一層の努力が必要」の活動にとどまった。

成績評価基準に関わる補足事項 :
学習相談 学習相談 : 授業後随時

授業以外での学習に当たって :

合理的配慮について :
障害(難病・慢性疾患含む)があり、通常の方法による授業を受けることが困難な場合には、教育目的の本質的な変更など過重な負担を伴わない限り、合理的配慮を受けることができます。合理的配慮とは、教授・学習法の変更、成績評価の方法の変更、授業情報の保障(資料の字幕化、個別の資料配布、録音・撮影の許可)、受講環境の調整などを指します。実際の方法については担当教員と建設的対話を行なった上で決定されます。
<相談窓口> キャンパスライフ・健康支援センター インクルージョン支援推進室(伊都地区センター1号館1階)
(電話:092-802-5859 E-mail:inclusion@chc.kyushu-u.ac.jp)