文学部 人文学科 文学コース 独文学 専門分野 専門分野科目 (単位数 2) 選択科目 対象学年: 対象学部等: |
German Literature (Lecture V)
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科目ナンバリングコード: LET-HUM3630J 講義コード: 2016 前期 毎週 火曜2限 箱崎 204 教室 J科目 (日本語, 日本語) |
授業の概要 |
「第三の国」Das dritte Reichという言葉はヨーロッパにおいて古くから存在し、12世紀に実在したフィオーレのヨアキムを出自とします。イタリアにあるカラブリアの修道院院長は、三位一体説に基づいて歴史を「父・子・聖霊」の三つ時代に分割し、旧約の時代、新約の時代が過ぎ去り、今や聖霊の時代、つまり「第三の国」が始まろうとしていると考え、この最終段階において修道生活に似た理想的な共同社会が実現すると主張しました。もっとも、20世紀前半以降、この言葉は1919年設立のドイツ労働者党から1920年に改称された国家社会主義ドイツ労働者党と結びつきます。つまり、「第三帝国」という表記で、ナチス・ドイツと結びつくのです。この言葉は、ドイツ労働者党の創設者ディートリヒ・エッカートによってすでに1919年に使われていますが、しかしながらドイツにおいて一般に流布するのは、ドイツ「保守革命」の先行者メラー・ファン・デン・ブルックの代表的著作『第三帝国』Das dritte Reich(1923年)以降のことでした。 しかしながら、ことは決して単純ではありません。この言葉には、ヨーロッパ、とりわけドイツにおける黙示録受容の複雑な経緯が反映されています。ヨアキムの思想は、16世紀のトーマス・ミュンツァーによる急進的な宗教改革運動を契機にドイツに根づき、更に近代に至ると、レッシング、ヘーゲル、シェリングにも影響をもたらしました。とりわけヨアキムが唱えた「第三の国」という考えは、1453年のコンスタンティノープル陥落後、ロシアにおいても独自の展開を遂げたのです。古代ローマと第二のローマであるコンスタンティノープルとが亡びた後、真のキリスト教信仰はモスクワにおいて保持されるという思想が広まっていたのです。そして同思想は、19世紀に至ると、モスクワを「第三の国」とみなす「ネオ・ヨアキム主義」として更なる展開を遂げて行きます。その際、ロシアの作家であり思想家であるドミトリー・メレシコフスキー(1866-1941)が理論的支柱として大きな役割を果たしました。ロシア象徴主義の先駆者は、ノルウェーの劇作家イプセン(1828-1906)の影響を受けながら独自の弁証法的な宗教意識を抱き、異教世界とキリスト教世界、肉体と精神、旧約聖書と新約聖書とを統合する「第三のかつ最終の局面」を待望したのです。 メレシコフスキーのこうした思想は、20世紀ドイツに多大な影響をもたらします。例えば、1910年頃にミュンヘンで抽象絵画への第一歩を踏み出したロシア人画家カンディンスキー(1866-1944)、1912年に詩人を「第三の国」とみなした作家トーマス・マン(1875-1955)、1905年にメレシコフスキーの協力を得ながらドイツで最初のドストエフスキー全集を刊行し、上述のとおり1923年に『第三の国』を上梓した思想家メラー・ファン・デン・ブルック、そして言うまでもなく、「第三帝国」の総統アドルフ・ヒトラー(1889-1945)等が挙げられましょう。 もっとも「第三の国」をめぐる問題は、決して他人事ではありません。第一次世界大戦後にナチス・ドイツの別称となっていく「第三帝国」という言葉が、第一次世界大戦前に日本においてデモクラシーと結びついていたのです。現在では日本の近代思想史においてほとんど忘れられてしまいましたこの事実は、私たちにとりましても、見逃すことのできない極めて重要な歴史的事実に他なりません。事実、「ヘブライズムとヘレニズム」の調和をめざす理念として「第三帝國」という言葉が第一次世界大戦前の日本において既に流布していました。こうした経緯は、近代日本における独特に屈折した西洋受容の結果に他なりません。 「第三の国」をめぐる講義は、数学期にわたり行い、ヨーロッパ、とりわけドイツにおける「ネオ・ヨアキム主義」の思想史的・文学史的展開を明らかにし、併せて近代日本における影響も考察します。今学期は、多岐にわたる問題領域を、トーマス・マンに焦点を絞りながら検討して行く予定です。マンと同時期にミュンヘンで活躍したカンディンスキーも扱います。 (Diese Vorlesung möchte sich mit dem Neo-Joachismus bei Thomas Mann beschäftigen und die komplizierte Abhängigkeit zu seinen Werken näher erörtern. ) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
キーワード : ドイツ文学、ドイツ思想、第三の国、第三帝国、トーマス・マン、カンディンスキー、近代日本思想 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
履修条件 : 履修に必要な知識・能力 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
特記事項 |
基本的に講義形式の授業です。但し、授業中に何度か書いてもらうレスポンスペーパーを通じて、講師と学生との相互交流を図り、授業が一方通行にならないように努めます。
教職 : 資格 : | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
到達目標 |
九州大学人文科学府歴史空間論専攻ディプロマ・ポリシー 九州大学人文科学府言語・文学専攻ディプロマ・ポリシー 九州大学文学部哲学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部歴史学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部文学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部人間科学コース・カリキュラムマップ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
授業方法 |
テキスト : プリントを配布する。 参考書 : 小黒康正『黙示録を夢みるとき トーマス・マンとアレゴリー』鳥影社、2001年。Klaus Vondung: Die Apokalypse in Deutschland. München: dtv 1988. 授業資料 : 授業計画 (授業計画は予定であり、学びの進捗に合わせて変更することがあります。)
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成績評価 |
GPA評価
成績評価基準に関わる補足事項 : 平常点50%+レポート50%(レポートの執筆要領ならびに採点基準を授業中に数回にわけて説明する) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学習相談 |
学習相談 : 本授業の終了後、ならびにオフィスアワー(火曜3限)にて相談に応じる。 授業以外での学習に当たって : 合理的配慮について : 障害(難病・慢性疾患含む)があり、通常の方法による授業を受けることが困難な場合には、教育目的の本質的な変更など過重な負担を伴わない限り、合理的配慮を受けることができます。合理的配慮とは、教授・学習法の変更、成績評価の方法の変更、授業情報の保障(資料の字幕化、個別の資料配布、録音・撮影の許可)、受講環境の調整などを指します。実際の方法については担当教員と建設的対話を行なった上で決定されます。 <相談窓口> キャンパスライフ・健康支援センター インクルージョン支援推進室(伊都地区センター1号館1階) (電話:092-802-5859 E-mail:inclusion@chc.kyushu-u.ac.jp) |