人文科学府 言語・文学専攻 西洋文学 分野
独文学 専修
博士演習 (単位数 2)
選択科目
対象学年:
対象学部等:
博士演習
Seminar
講義題目  ヘルタ・ミュラー(2)
教授 小黒 康正
科目ナンバリングコード:
講義コード:
2018 後期
毎週 金曜4限
伊都 独文演 教室
J科目 (日本語, 日本語)
授業の概要  総じて現代の優れた文学は、新しいポエジー言語を伴いながら、「周辺」から立ち上がってくる。その意味を我々に改めて問うのが、2009年12月にノーベル文学賞を受賞したヘルタ・ミュラーの文学であろう。
 1953年、ミュラーはルーマニアのバナート地方に生まれた。そこは、18世紀にオーストリアの国家的要請を受けてドイツ・シュヴァーベン地方の人々が入植した土地である。ミュラーはこうした「周辺」の地で、1987年にベルリンに移住するまでチャウシェスクの独裁政治がもたらす恐怖に曝され続けた。処女作『澱み』(1984年;山本浩司訳、三修社、2010年)は、ドイツ系少数民族の村社会に渦巻く因習や権威主義や暴力を子供の眼差しで描く「反牧歌」である。第一長編『狙われたキツネ』(1992年;山本浩司訳、三修社、1997年)では、秘密警察と相互密告に苦しむルーマニア80年代の日常が、不気味なメールヒェンと化す。第二長編の『心獣』(1994年;小黒康正訳、三修社、2014年)も、同様の日常を描きながら、個人と集団の経験を牧歌的に混淆させ、「深い憂い」を断片的な個々の事物に刻み込み、独自の「歴史的な証言」を読者に追体験させる。また、最新の長編『息のブランコ』(2009年;山本浩司訳、三修社、2011年)は、ドイツ系ルーマニア人が第二次世界大戦時に旧ソ連で被った強制労働という政治的タブーを扱う。総じてミュラー文学は多民族の縮図の中でマイノリティーが陥った苦難を見事に証言する。
 但し、過酷な現実を書き連ねるだけでは文学は成り立たない。ミュラーは言う、「多くの人にとって私の本は証言です。しかし私は書いている自分が証言者であると感ずることはありません。私が書くことを学んだのは沈黙からです。そこから書くことが始まりました」と。『狙われたキツネ』ではルーマニアの三色旗が「赤貧の赤、沈黙を表す黄色、監視の青」として示され、『心獣』は「僕らは黙ると腹が立つし、しゃべれば笑いものさ」という文言で始まり終わる。ミュラー文学における「沈黙」とは、独裁政治によって強いられた寡黙や秘密警察に対する黙秘だけではない。それは、過度な恐怖によって現実が歪められた結果、加害者と被害者、自殺と他殺、光と闇、自然と人間、これらの境界が判別しがたくなったいわば「言語」を絶する状況である。
 総じてドイツ現代文学は「沈黙」にことばを与えようとする矛盾を意図的に犯す。ミュラーの場合、コラージュの技法を巧みに用い、エピソードを断片化し、ことばを切りつめることで、饒舌な「沈黙」を現出させる。しかもそうした「沈黙」には倦怠と沈思による「深い憂い」が伴う。芸術の霊感源と称されてきたメランコリーが、古代ローマの農耕神サトゥルヌスや時の神クロノスと深く関わる土星的資質の知的衝動であることを忘れてはならない。ミュラー文学には、農地開拓の為に辺境に移住した人々の言語に絶する「深い憂い」が、時を経て沈殿し続けている。
 本演習では、"Heute wär ich mir lieber nicht begegnet." (Rowohlt, Reinbek bei Hamburg 1997) の後半部を読みながら、「現代文学」の最先端を繙くことを目指す。今学期からの参加も可能。 

(Hauptseminar über Herta Müllers "Heute wär ich mir lieber nicht begegnet." (1997))
キーワード : ヘルタ・ミュラー、ドイツ現代文学
履修条件 :
履修に必要な知識・能力 :
授業計画 テキスト : プリントを配布する。
参考書 : 授業中に指示する。
授業資料 :

進度・内容・行動目標等 講義 演習・その他 授業時間外学習
1 (1)全般的な教育目標:ドイツ文学に関する知見を深める。(2)個別の学習目標:ドイツ語テクストを正確に読む力を高めながら、文学研究の基本を学ぶ。 演習

授業以外での学習に当たって :
学習相談 : 本授業の終了後、ならびにオフィスアワー(火曜3限)にて相談に応じる。
到達目標
かなり優れている 優れている 及第である 一層の努力が必要
ML_A-c [研究史と方法論の体系的理解]
専門分野に固有の問題設定や研究手法を正しく身につける。
当該分野における研究史と方法論の体系的説明がかなり優れている。 当該分野における研究史と方法論の体系的説明が優れている。 当該分野における研究史と方法論の体系的説明ができる。 当該分野における研究史と方法論の体系的説明ができない。
ML_B2-b [理論的思考力]
専門分野に固有の実証的な方法と理論的な思考力を身につける。
当該分野における実証的な方法と理論的な思考力がかなり優れている。 当該分野における実証的な方法と理論的な思考力が優れている。 当該分野における実証的な方法と理論的な思考力をもつ。 当該分野における実証的な方法と理論的な思考力をもたない。
GPA評価
A B C D F
授業を通じて、総じて「かなり優れている」に相当する活動を行った。 授業を通じて、概ね「優れている」を超える活動を行った。 授業を通じて、「及第する」に相当する活動を行った。 授業を通じて、総じて「及第する」には達しないものの、それに近い活動を行った。 授業を通じて、「一層の努力が必要」の活動にとどまった。
成績評価
観点→
成績評価方法
ML_A-c
[研究史と方法論の体系的理解]
ML_B2-b
[理論的思考力]
備考(欠格条件、割合等)
期末試験
授業への貢献度

成績評価基準に関わる補足事項 :
その他 その他 :

教職 :
資格 :

更新日 : 2018/3/29 (11:42)