文学部 人文学科 文学コース
独文学 専門分野
専門分野科目 (単位数 2)
選択科目
対象学年:
対象学部等:
ドイツ文学演習 III
German Literature (Seminar III)
講義題目  ヘルタ・ミュラー研究(3)
教授 小黒 康正
科目ナンバリングコード: LET-HUM2637J
講義コード: 17052306
2017 前期
毎週 火曜4限
箱崎 独文演 教室
J科目 (日本語, 日本語)
更新情報 : 2017/2/19 (13:25)
授業の概要  総じて現代の優れた文学は、新しいポエジー言語を伴いながら、「周辺」から立ち上がってくる。その意味を我々に改めて問うのが、2009年12月にノーベル文学賞を受賞したヘルタ・ミュラーの文学であろう。
 1953年、ミュラーはルーマニアのバナート地方に生まれた。そこは、18世紀にオーストリアの国家的要請を受けてドイツ・シュヴァーベン地方の人々が入植した土地である。ミュラーはこうした「周辺」の地で、1987年にベルリンに移住するまでチャウシェスクの独裁政治がもたらす恐怖に曝され続けた。処女作『澱み』(1984年;山本浩司訳、三修社、2010年)は、ドイツ系少数民族の村社会に渦巻く因習や権威主義や暴力を子供の眼差しで描く「反牧歌」である。第一長編『狙われたキツネ』(1992年;山本浩司訳、三修社、1997年)では、秘密警察と相互密告に苦しむルーマニア80年代の日常が、不気味なメールヒェンと化す。第二長編の『心獣』(1994年;小黒康正訳、三修社、2014年)も、同様の日常を描きながら、個人と集団の経験を牧歌的に混淆させ、「深い憂い」を断片的な個々の事物に刻み込み、独自の「歴史的な証言」を読者に追体験させる。また、最新の長編『息のブランコ』(2009年;山本浩司訳、三修社、2011年)は、ドイツ系ルーマニア人が第二次世界大戦時に旧ソ連で被った強制労働という政治的タブーを扱う。総じてミュラー文学は多民族の縮図の中でマイノリティーが陥った苦難を見事に証言する。
 但し、過酷な現実を書き連ねるだけでは文学は成り立たない。ミュラーは言う、「多くの人にとって私の本は証言です。しかし私は書いている自分が証言者であると感ずることはありません。私が書くことを学んだのは沈黙からです。そこから書くことが始まりました」と。『狙われたキツネ』ではルーマニアの三色旗が「赤貧の赤、沈黙を表す黄色、監視の青」として示され、『心獣』は「僕らは黙ると腹が立つし、しゃべれば笑いものさ」という文言で始まり終わる。ミュラー文学における「沈黙」とは、独裁政治によって強いられた寡黙や秘密警察に対する黙秘だけではない。それは、過度な恐怖によって現実が歪められた結果、加害者と被害者、自殺と他殺、光と闇、自然と人間、これらの境界が判別しがたくなったいわば「言語」を絶する状況である。
 総じてドイツ現代文学は「沈黙」にことばを与えようとする矛盾を意図的に犯す。ミュラーの場合、コラージュの技法を巧みに用い、エピソードを断片化し、ことばを切りつめることで、饒舌な「沈黙」を現出させる。しかもそうした「沈黙」には倦怠と沈思による「深い憂い」が伴う。芸術の霊感源と称されてきたメランコリーが、古代ローマの農耕神サトゥルヌスや時の神クロノスと深く関わる土星的資質の知的衝動であることを忘れてはならない。ミュラー文学には、農地開拓の為に辺境に移住した人々の言語に絶する「深い憂い」が、時を経て沈殿し続けている。
 本演習では、"Heute wär ich mir lieber nicht begegnet." (Rowohlt, Reinbek bei Hamburg 1997) を読みながら、「現代文学」の最先端を繙くことを目指す。今学期からの参加も可能。 

(Proseminar über Herta Müllers "Heute wär ich mir lieber nicht begegnet." (1997))
キーワード : ヘルタ・ミュラー、ドイツ現代文学
履修条件 :
履修に必要な知識・能力 :
特記事項
遠隔/対面 Moodle 情報
対面授業
リアルタイム-オンライン授業
ハイブリッド授業(対面+オンライン)
オンデマンド型授業
課題提出型授業

教職 : 教職(ドイツ語)
資格 :
到達目標
かなり優れている 優れている 及第である 一層の努力が必要
B_A-c [言葉の理解]
「言葉」に対する自覚的かつ反省的な関わりを通じて、人間存在への理解を深める。
対象作品をかなり精密に読解できる。 対象作品を精密に読解できる。 対象作品を概ね読解できる。 対象作品を充分に読みこなすことができていない。
B_B1-b [専門文献の解釈]
専門分野の基本文献を精確に解釈、分析することができる。
独文学研究に必要な研究手法をかなり秀逸に身につけている。 独文学研究に必要な研究手法を秀逸に身につけている。 独文学研究に必要な研究手法を概ね身につけている。 独文学研究に必要な研究手法を身につけていない。
九州大学文学部ディプロマ・ポリシー   九州大学人文科学府人文基礎専攻ディプロマ・ポリシー
九州大学人文科学府歴史空間論専攻ディプロマ・ポリシー   九州大学人文科学府言語・文学専攻ディプロマ・ポリシー
九州大学文学部哲学コース・カリキュラムマップ   九州大学文学部歴史学コース・カリキュラムマップ
九州大学文学部文学コース・カリキュラムマップ   九州大学文学部人間科学コース・カリキュラムマップ
授業方法
授業形態(項目) 授業形態(内容)
講義
外国語演習
原典資料演習
実習/フィールド調査
Problem-Based Learning (問題発見・解決型学習)
学生のプレゼンテーション
Moodle の使用
学外実習
野外実習

テキスト : 授業中に指示する。
参考書 :
授業資料 :

授業計画 (授業計画は予定であり、学びの進捗に合わせて変更することがあります。)
進度・内容・行動目標等 講義 演習・その他 授業時間外学習
1 (1)全般的な教育目標:ドイツ文学に関する知見を深める。(2)個別の学習目標:ドイツ語テクストを正確に読む力を高めながら、文学研究の基本を学ぶ。 演習

成績評価
観点→
成績評価方法
B_A-c
[言葉の理解]
B_B1-b
[専門文献の解釈]
備考(欠格条件、割合等)
期末試験
授業への貢献度

GPA評価
A B C D F
授業を通じて、総じて「かなり優れている」に相当する活動を行った。 授業を通じて、概ね「優れている」を超える活動を行った。 授業を通じて、「及第する」に相当する活動を行った。 授業を通じて、総じて「及第する」には達しないものの、それに近い活動を行った。 授業を通じて、「一層の努力が必要」の活動にとどまった。

成績評価基準に関わる補足事項 :
学習相談 学習相談 : 本授業の終了後、ならびにオフィスアワー(火曜3限)にて相談に応じる。

授業以外での学習に当たって :

合理的配慮について :
障害(難病・慢性疾患含む)があり、通常の方法による授業を受けることが困難な場合には、教育目的の本質的な変更など過重な負担を伴わない限り、合理的配慮を受けることができます。合理的配慮とは、教授・学習法の変更、成績評価の方法の変更、授業情報の保障(資料の字幕化、個別の資料配布、録音・撮影の許可)、受講環境の調整などを指します。実際の方法については担当教員と建設的対話を行なった上で決定されます。
<相談窓口> キャンパスライフ・健康支援センター インクルージョン支援推進室(伊都地区センター1号館1階)
(電話:092-802-5859 E-mail:inclusion@chc.kyushu-u.ac.jp)