人文科学府 言語・文学専攻 西洋文学 分野 独文学 専修 専修科目 (単位数 2) 選択科目 対象学年: 対象学部等: |
German Modern Literature (Specialized Lecture II)
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科目ナンバリングコード: 講義コード: 2017 後期 毎週 火曜2限 箱崎 202 教室 J科目 (日本語, 日本語) |
授業の概要 |
トーマス・マン(1875-1955)は、『トニオ・クレーガー』『ヴェニス死す』『魔の山』『ヨゼフとその兄弟たち』『ファウスト博士』などの文学作品や『非政治的人間の考察』『ドイツ共和国について』『ドイツとドイツ人』などの評論で著名なドイツのノーベル賞作家です。マン自身は、ショーペンハウアー、ニーチェ、ヴァーグナー、それにゲーテから多大な影響を受けただけではなく、トルストイ、ドストエフスキー、シラー、フロイト、アンデルセンなどからも影響を受けました。このようにマン文学には、過去の文化遺産が多層的に交差しています。しかしながら、マンは、20世紀のドイツ語圏文学を代表する作家でありながら、後世の作家たちに多大な影響を与えたとは必ずしも言えません。例えば、20世紀のドイツ語圏文学を同じく代表するフランツ・カフカ(1883-1924)の文学が後進の作家たちに及ぼした影響と比べますと、マン文学の影響は明らかに小さいと言えます。 しかしながら、日本におけるマン受容はいささか事情が異なるようです。マンは、1920年代半ばに生まれた日本の作家たち、とりわけ吉行淳之介、三島由紀夫、辻邦夫、北杜夫や、1930年代半ばに生まれた筒井康隆、倉橋由美子、大江健三郎らに愛読され、近年では、村上春樹(1949- )や平野啓一郎(1975- )にも影響を与えました。このようなドイツと日本における受容の相違、あるいは日本におけるマン受容の特殊性は、いったいどこから生じたのでしょうか。この問いに答えるためには、日本の作家たちはマン文学から何を読み取り、何を受け取ったのかを確かめておかなければなりません。 例えば、三島由紀夫の場合、「世界第一の作家」から受けた影響は重要です。三島はマン受容の際に「文学的青春としてのトニオ・クレーガー的ぺシミズム」に耽溺したばかりではなく、『ヴェニスに死す』を「ドイツ語の抽象的表現能力の極地」とみなし、マンを通じて「西欧的二元論の影響」を受けたと言い、『金閣寺』の「男性的」文体を「鴎外プラス、トオマス・マン」として説明しました。そうした発言を踏まえて、三島が哲学小説を、つまり、「彼自身の『魔の山』を書こうとした」と推測したのは、ドナルド・キーンです。更に、昭和を代表する恋愛小説とでも称すべき村上春樹の『ノルウェイの森』が『魔の山』を下敷きにしていることも、平成を代表する恋愛小説になりつつある平野啓一郎の『マチネの終わりに』が『ヴェニスに死す』の影響のもとで「芸術対人生」の問題に新たに取り組んでいることも、ともに見逃せません。 本講義は、ドイツ文学の講義として、トーマス・マン文学の全体像を明らかにすることを目指します。併せて、九州大学に2017年6月に寄贈されたばかりのマンの手紙4通に基づいて、従来ほとんど知られていない日本に対するマンの関心にも光を当て、日本におけるマン受容の新たな側面も明らかにする計画です。各作家のマン受容も、各時代のマン受容も、決して同一ではありません。特に、三島由紀夫、辻邦夫、村上春樹のマン受容を比較検討すると、一作家をめぐる受容のみならず、日本における西洋受容の諸段階が明らかになるのです。その意味で、本講義は日本における西洋受容の講義でもあり、現代日本文化論の講義でもあります。 (Thomas Mann and Japanese Literature (Yukio Mishima, Kunio Tsuji, Haruki Murakami, Keiichiro Hirano)) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
キーワード : トーマス・マン、三島由紀夫、辻邦夫、村上春樹、平野啓一郎 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
履修条件 : 履修に必要な知識・能力 : | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
特記事項 |
基本的に講義形式の授業です。但し、授業中に何度か書いてもらうレスポンスペーパーを通じて、講師と学生との相互交流を図り、授業が一方通行にならないように努めます。
教職 : 教職(ドイツ語) 資格 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
到達目標 |
九州大学人文科学府歴史空間論専攻ディプロマ・ポリシー 九州大学人文科学府言語・文学専攻ディプロマ・ポリシー 九州大学文学部哲学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部歴史学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部文学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部人間科学コース・カリキュラムマップ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
授業方法 |
テキスト : プリントを配布する。 参考書 : 小黒康正『黙示録を夢みるとき トーマス・マンとアレゴリー』鳥影社、2001年。 授業資料 : 授業計画 (授業計画は予定であり、学びの進捗に合わせて変更することがあります。)
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成績評価 |
GPA評価
成績評価基準に関わる補足事項 : 平常点50%+レポート50%(レポートの執筆要領ならびに採点基準を授業中に数回にわけて説明する) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学習相談 |
学習相談 : 本授業の終了後、ならびにオフィスアワー(火曜3限)にて相談に応じる。 授業以外での学習に当たって : 合理的配慮について : 障害(難病・慢性疾患含む)があり、通常の方法による授業を受けることが困難な場合には、教育目的の本質的な変更など過重な負担を伴わない限り、合理的配慮を受けることができます。合理的配慮とは、教授・学習法の変更、成績評価の方法の変更、授業情報の保障(資料の字幕化、個別の資料配布、録音・撮影の許可)、受講環境の調整などを指します。実際の方法については担当教員と建設的対話を行なった上で決定されます。 <相談窓口> キャンパスライフ・健康支援センター インクルージョン支援推進室(伊都地区センター1号館1階) (電話:092-802-5859 E-mail:inclusion@chc.kyushu-u.ac.jp) |