九州大学の倫理学研究室では、西洋と日本の倫理学・倫理思想が主に研究されています。授業では、古典から現代までのさまざまな文献を取り扱いますが、特に用いることが多いのは近現代のドイツ、英米および日本のものです。まずはこれらの文献を通じて、倫理学的な概念・命題の基礎的な分析方法を修得するとともに、個々の倫理思想が時代・地域によって様々であることを学びます。
だたし、古典であれ現代であれ、文献は手掛かりにすぎません。本研究室では、研究テーマは個々人が自由に選ぶことを基本としています。道徳の言語を分析するもよし、倫理学史上の古典を分析するもよし、人生の意味を問うもよし、現代社会の具体的な諸問題を考察するもよしです。問題をとりまく倫理的判断や議論の構造を明晰に理解し、緻密に処理するための素養を授業では養います。培った倫理学的教養を用いて、それぞれが自分の問題に向き合う主体性を重んじています。
倫理の問題は多岐にわたり、またそれらが関連しあっています。その為、本研究室では、メタ倫理や規範倫理の諸問題だけでなく、心の哲学や言語の哲学といった周辺の哲学的問題、諸宗教の倫理思想にも目配りをします。また、近年議論が盛んな脳死や臓器移植をめぐる生命倫理・環境倫理・科学技術倫理などのアクチュアルな問題に対しても積極的に取り組んでいます。さらに、古代から近代にいたるまでの日本思想史を広く学ぶこともできます。
研究室は、気難しい道学者たちの集まりではなく、厳格な学問的姿勢をつらぬきつつも、率直に意見を言い合える雰囲気をもっています。何よりも議論が研究活動の中心です。
卒業生の進路はさまざまです。銀行や広告代理店など一般企業に就職する人も多数いますし、市役所等の公務員になる人、教育機関に勤める人、進学する人など多岐に渡ります。倫理学の専門職に就く人ばかりではありませんが、しばしば、進路先で直面するであろう特別な倫理的問題を卒業論文の研究テーマに選ぶといった形で、研究と就職が連動しています。進学に関しては、研究への熱意以外に動機を問いません。研究者を目指す人にもそうでない人にも広く門戸を開いています。院生は九州大学哲学会の活動として研究発表や学会誌『哲学論文集』への投稿を行うとともに、哲学倫理学研究会として、発表会を主宰してもいます。また、九州、山口を中心とした西日本哲学会にも積極的に参加しています。
〈過去の卒業論文のテーマの例〉
・ヒュームにおける理性と感情の関係について
・人格の同一性
・教育者の理想像
・グラフィティアートにおける道徳と芸術的評価
・行為の合理化とは何か
・出生前診断をめぐる倫理学的議論
・親鸞における信心