地理学の出発点には、身近な日常生活の場に対する関心と同時に、山の稜線や大海原の彼方に、いったいどんな世界があるのかを知りたいと思う好奇心があったといえるでしょう。人間の豊かな想像力と旺盛な行動力は、世界を多様な地図に描き出し、またその仕組みを大きく変えてきました。現在の私たちの経済活動や政治、社会生活や文化は、ローカルな場所での日常的な相互関係とともに、世界的規模に広がった空間関係によって営まれており、この多様なつながりは今後ますます拡大、深化するでしょう。ただしそれは、グローバル化する環境問題や地域紛争など我々の生活を根本から脅かす事態を伴っています。地理学とはこうした諸問題を、社会とその基盤である場所、空間、環境の複雑な関わりから研究する学問であり、現在を生きる私たちの「位置」をよりよく知るための「知」であるといえます。
私たちの研究室では、こうした近現代社会の諸問題を、理論と実証の両面から探究することを目指しています。特に重視している点は、地理学の枠に閉じこもるのではなく、広く人文・社会科学との関連で地理学の認識論や方法論を検討することと、それを抽象的な議論に終わらせることなく、具体的なフィールドワークを通じて実証研究と有機的に結びつけることです。そのため授業では、英独仏のテキストの読解や地理情報システムなどを利用した情報解析の作業に加えて、フィールド調査が必修となっています。これまで九州各地の山村、漁村、都市、離島をフィールドとして学部生と院生が共同で調査を行い、その成果を「地域調査報告」として刊行してきました。また、研究の基盤となる書籍や雑誌類も豊富で、特にフランス語圏の文献は国内でも有数の蔵書を備えています。新たな問題意識を開拓し、自らのフィールドで得た知見を、日本にとどまらず世界に向けて発信していくことが私たちの目標です。