飛鳥時代以来、多くの人が仏教の受容に努めてきた。はるばる長安に留学した日本人も少なくない。しかし、教学隆盛期の江戸時代に至るまで、仏教研究の主資料は漢文であった。玄奘のように、インドに長年留学してサンスクリット語をマスターして帰ってきたという日本人はいない。
事情が一変するのは明治時代。西欧から最新のインド研究がもたらされる。サンスクリット語・パーリ語・チベット語の研究が本邦でも始まる。我々はインド世界に直接アクセスできるようになった。いわゆる「印哲」の始まりである。
21世紀に入って、さらに変化は加速する。チベット寺院に残されていた膨大な量のサンスクリット語・チベット語の古写本が徐々にアクセス可能となり、アフガニスタンの地中からは紀元後数世紀の最古の仏教写本群が出土しはじめた。いま、インド仏教史は大きく塗り替えられようとしている。新たな資料をもとに、インド仏教をインド学という広い枠組みから捉え直すこと、それが「印哲」の使命である。
本講座は、インド仏教を中心に、インド学・インド哲学を広く学べるよう配慮している。対象とする文献は、サンスクリット語・パーリ語・チベット語で書かれたものなら全てである。経典・論書が中心だが、周縁には東南アジアの梵語碑文も含む。宗教・哲学のみならず、詩文学・インド医学・ヨーガ、また文献と密接に関連するインド美術やインド寺院建築など、カヴァーする分野は多岐に渡る。
学部における学習の中心はサンスクリット語の習得。ただひたすら梵語である。また学生の興味と必要に応じて、パーリ語とチベット語の授業も開講する。語学が好きだという人には向いている。
またインド学・仏教学は、国内外の交流が盛んである。大学院では英語論文の執筆が普通に求められる。国際交流に興味ある人、いずれは海外に留学したい人にもお薦めの分野だ。
専任教員は二人。岡野が文学を中心とした仏教文献を、片岡がそれ以外のインド古典文献を担当。アットホームな雰囲気でインドの語学・文化をじっくりと学びたい人は大歓迎。