<第75回大会> 2006年11月25・26日(於 八代市立博物館 未来の森ミュージアム)
- 「韓国美術における'ハン(恨)' ─韓国の固有情緒'ハン(恨)'や韓国女性美術の中に表れる'ハン'─」
黄禧晶(九州産業大学大学院)
論者が生まれ育った韓国には韓国独特の民族情緒である'ハン(恨)'が存在する。この 'ハン'は'恨'という漢字を使っているが、日本でいう'恨み'とは多く異なる性質を持つ韓国人独特の生まれついたモラルである。'ハン'は他人への憎しみから生ずるもので はなく、わけ知らぬ心の奥底からくる悲しみや痛みの情緒である。このような'悲'や '痛' の情緒はほぼ遺伝的に発するものである。'ハン'はその感情ら(悲や痛)を他人へとぶつ けるものではなく、むしろ'ハン'にはその悲しみの原因は自分自身にあるという考え方が潜んでいる。'悲'から始まる'ハン'の情緒は'諦念'や'達観'の美学まで含んでいる言葉で説明し切れない不思議なものである。韓国民族は'悲'を愛する民族であると言われている。近年日本にも多く紹介されている'韓流文化'もこの'悲'の情緒に訴えているところが非常に大きい。このような'ハン'は韓国という国の長い歳月にかけての'抑圧'の歴史と密接な関連があると考えられる。韓国が大陸と海に接している地政学的条件を持っているため、韓国は様々な国から相次いで侵略されてきた悲運の歴史を持つ。その相次ぐ被侵を経験していくうちに愛する者や国を失う悲しみを自然に憶えるようになり、それは'慢性化された悲しみ'になって韓国人の無意識に染み込みつつあった。いわば'ハン'は韓国民族の遺伝的トラウマであると言えよう。
'ハン'はその特性上疎外されがちな、抑圧されがちなところに芽生えかねない。論者はこのような抑圧の象徴である'ハン'の特性に注目し、また二分法的観点から男性に従属されがちであった'女性'におけるハンがどのようなものであるか考察する。論者のジェンダーが'女性'であることに着目して女性的視線からみる'ハン'の実体を探ることにする。また男性とは異なる身体的、感性的経験を持つ'女性の感受性'と'ハン'を結びつけ、韓国女性美術の中に表れる女性的'ハン'を考察する。論者は儒教の文化や因習が未だに根強く残っている韓国社会で、'対象'ではなく'主体'として立ち上がろうとする女性の視線が'ハン'の表出として表れる韓国女性美術の例を紹介することで、韓国的情緒ひいては韓国的女性感受性に対する理解を求めるのである。
「"The Other Story"展(1989年、イギリス)にみるモダニズムと他者」
石松紀子(九州大学大学院)
<『デ アルテ』23号、61〜81頁>
「鄙の夢─天草郡高浜村庄屋上田家と磁器焼成
福原透(八代市立博物館)
肥後の磁器史は大きく三期に画することができる。
第一期は、磁器の創始と海外輸出の時代である。1650〜1680年代にかけて内田皿山焼(天草郡苓北町)をはじめとする天草下島の三窯で、東南アジア向輸出磁器などが焼かれた、17世紀後半の空前の磁器輸出景気が清王朝の展海令とともに消え去った時、肥後産磁器の第一期は終了する。その後、肥前波佐見の陶工による下津深江焼京ノ峰窯(天草氏天草町京ノ峰)の二年間の操業を除いては、天草は磁器産地ではなく、その豊かな陶石を、原料として各地の皿山に送る原料供給地となった。
第二期は、肥後産磁器中興の時代である。宝暦13年(1763)高浜村(天草市天草町)庄屋上田伝五右衛門は、肥後長与の陶工を招き高浜焼きを開窯する。伝五右衛門とその子源作(宜珍)はたんなる原料の供給地ではなく、より付加価値の高い製品の生産地たることを目指した。高浜焼の技術は、やがて肥後細川藩窯網田焼に受け継がれてゆく。
第三期は、小規模磁器窯の時代である。江戸時代末期から近代にかけて天草はじめ肥後各所に、限られた地域を流通範囲にしたと考えられる小規模窯が開かれるが、その多くは短期間に消え去ってゆく。
今回、取り上げる高浜焼は、肥後の西端、天領天草という一地方の庄屋により興された新興磁器窯でありながら、安永78年(1778~79)には幕府により許されて長崎出島でオランダ人への磁器販売を行った希有な窯である。西洋人向けの染付や染錦手を苦労の末に制作したが、そのうらには庄屋二代にわたる壮大な夢が託されていた。本発表では、磁気焼成に込められた肥後の一地方の庄屋の夢と、それを取り巻く江戸時代中後期の社会状況について、関係資料、伝世品によって紹介したい。
<『デ アルテ』24号、5〜20頁>
「九州国立博物館導入の文化財用大型 X 線 CT について」
楠井隆志・鳥越俊行(九州国立博物館)
九州国立博物館では、このたび、文化財用大型 X 線 CT スキャン装置(コンピュータ断層撮影装置:エクスロン・インターナショナル社製)を導入した。文化財専用の CT スキャン装置としては最新かつ最大であり、仏像であれば等身大の立・坐像まで高速・精密に測定できる日本唯一のものである。
X 線 CT とは、測定対象物の断面を非破壊・非接触で画像化する装置である。撮影した画像は透過像、断層像、三次元像として表示できる。九州国立博物館では、測定対象資料を博物館で展示する一般的な文化財に限定し、その内部の構造及び材質の解析を主たる目的として導入を決めた。これまでの試験運用の結果、なかでも木彫文化財の内部構造解析にもっとも効力を発揮することが明らかになった。
本発表では、この装置の構成や特徴、これまでの調査例と成果について二、三の報告をおこなってみたい。
見学会
八代市博物館特別展 「肥後の磁器」展
松浜軒(旧八代城主松井家御茶屋)