『九州史学』133号 地域社会における中間層-「中間」意識の形成-

近世社会においては、政治権力と民衆社会の結節点として庄屋・大庄屋といったいわゆる「中間層」が設定され、政治権力の末端として、または民衆社会の代表者としての役割を担った。彼ら中間層については、かつて経済的側面に注目した地主制研究、豪農論に基づく 研究がさかんにおこなわれた。その後一九八〇年年代からは中間層が持つ行政機能に着目する研究や、畿内において頻発した「国訴」 の運動形態を分析することにより、近世の中間層を近代の代議制の先駆とみる研究などがあらわれ、村政の民主化といった、近世社会に おいて民衆社会の側が育んだ「公共的領域」を積極的に評価し、中間層を近世・近代移行期における変革主体として位置づけるようになった。そして近年では都市社会論の影響を受け、地域社会構造を把握し、そのうえで中間層を位置づけ直す試みや、支配層の具体的政策展開のなかで、中間層が担った役割と彼ら自身の変化の検討を主張する見解も出され、いわば「公共」「行政」と「社会的権力」をキーワードとした多様な研究が繰り広げられている、とまとめることができるだろう。
しかしそれらの研究を支える実証研究についてみたとき、各地で多様な中間層のあり方を実態的に考察した研究はまだまだ不十分である。我々は、先に述べたような論争が行われている今こそ、それぞれの地域が有する、特有の自然環境や歴史的背景を踏まえた研究を進めることで、質的にも豊かで多様な中間層の実像を示すことが可能であり、単なる事例研究の蓄積にとどまらず、中間層研究の深化に寄与できるものと考えている。
そこで、近世史部会においては、中間層の担った機能・役割、および意識について検討することによって、その歴史的意義の再評価を試みる特集を組み、これまで部会報告などを積み重ね、本号では、そのうちの三本の研究論文を掲載した。近世史部会では、今後も中間層について考えていく予定だが、今回のキーワードである「意識」についてのみならず、様々な中間層の側面を明らかにしていきたい。

(伊藤昭弘「特集にあたって」より部分抜粋)

《内容紹介》

伊藤昭弘 特集にあたって
宮崎克則 〈論文〉「会議を開く庄屋たち-唐津藩の場合-」
佐藤晃洋 〈論文〉「豊後国直入郡幕領の庄屋」
伊藤昭弘 〈論文〉「萩藩における「御仕成」と中間層」