前近代、特に中世の対外関係史については、昨今、様々な新しい潮流が出てきている。東アジア~ 東南アジア地域を「環シナ海世界」と「環日本海世界」に大きく分けて、広域の海域世界を設定したり、 国家の枠組みを相対化し、国際交流を新たな視角から捉えようとする、村井章介氏の考え方はその代表的なものである。 また、日中・日朝・日琉など各時代の諸関係の個別研究も増加しており、その関係の特質がより明確になってきている。
一方、そうした対外関係史研究の進展と相まって、新しい史料の発掘や新たな視角からの史料研究も進んできた。 例えば、対馬宗家に伝来した図書や木印が大量に発見され、十六世紀の日朝関係史研究が大きく進展したのはその代表的な例である。 また、考古学における貿易陶磁研究の隆盛も見逃せない。しかし、個別史料研究は進展してきたが、まとまった史料論は少なく、 日本古文書学の中では、まだ課題の多い分野である。
本特集では、そのような研究動向に鑑み、時代を中世から近世に限定して、新たな史料の発掘や新しい分析視角に基づいた日朝関係史を志向してみた。 この分野の研究には様々な史料があるが、本特集では、各執筆者がそれぞれの一点ごとの史料そのものにこだわり、外交史料論と対馬宗氏を 中心とした日朝関係史を追求している。特に外交文書を中心とする文書研究を特集の中心に据えている。さらに研究上重要と思われる史料三件を翻刻紹介した。 本特集が、今後の中近世対外関係史研究の進展に資すれば幸いである。
(佐伯弘次「特集にあたって」より一部抜粋)
《内容紹介》
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