叡智の扉を開く学問
・・・・このように考えるあなたは、この研究室の扉の前に立っています。
この研究室は,例えば,次のような研究をしたい人に最適です。
インドの神話の研究。
ボロブドゥール遺跡第一回廊の浮彫図絵の研究。
アジャンター遺跡や,中央アジアのキジール遺跡の仏教壁画の研究。
インド正統六派哲学の研究。
ダルマキールティの仏教論理学の研究。
般若経や法華経の貝葉写本の研究。
ゴータマ・ブッダの伝記の研究。
ネパールの仏教説話集,アヴァダーナマーラーの研究。
10世紀頃のカシュミールの宗教と文化の研究。
古典チベット語の文献研究。
東南アジアの仏教コスモロジーの研究。
クマーリラの思想の研究。
南方仏教,パーリ聖典の研究。
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ここはどんなところ?
問い:こんにちは。看板に「インド哲学史」とありますが,この講座は,インド哲学を学ぶところなのですか。
答え:いらっしゃい。インド哲学という名の講座名は,旧帝大の諸大学で古くから使われていて,そのために九大でも哲学コースの中に置かれているわけなのですが,実質はむしろインド文明学,文化学であると思って下さい。この講座ではインドの古典文化,例えば古代から中世にかけての文学作品、説話や神話,また仏教やヒンドゥー教やジャイナ教などの聖典類や哲学的文献、法典類、歴史的文献、ヨーガなど、好きな領域を研究することが出来ます。
この講座の学問は「インド学」Indologyとよばれます。インドの文化を根底的に理解するために文献学的な研究をおもに行っています。この研究の世界は実に広大ですが,一つのおさえどころは,宗教なのです。インド文化の根底には常に宗教(宗教的コスモロジー)があります。宗教がインド文化の土台なのです。インドでは文学,哲学,歴史,芸術,建築,暦学,医学など,あらゆる文化領域に宗教が入り込んでおり,宗教と社会とは切っても切れない関係にあります。ですから,インド文化を研究するためにはとくにインド人の作る文化におけるその宗教意識のあらわれ方に,ふかい関心をもって取り組んでゆく必要があるのです。
インド文化を理解するためには,インドの宗教的な聖典や哲学書を原語で読むばかりでなく,インド人が無意識にもっているものを把握するために神話や民話や文学的な作品を調べたりする必要があります。私たちの九大インド哲学史講座は,名前こそ哲学史ですが,哲学や仏教に関心がある人ばかりでなく,哲学が嫌いで文学や神話や民話や歴史に関心がある人をも,大いに歓迎します。それらの研究も哲学文献の研究におとらず,インドの宗教的文化の解明につながってゆくからです。
問い:友だちが,ここの講座はサンスクリット漬けになるところだといってたんですが,この講座では,なぜサンスクリット語が必修になっているのですか。
答え:一つの文明を理解するために,その文明を築いた古典語の勉強が必要なのです。西洋文明を土台から理解するために,西洋人たちはラテン語や古代ギリシャ語を勉強します。それと同じように,インド文明を知るためにはサンスクリット語を学ぶことが大切です。この講座では南アジアつまりインド文化圏の古典語であるサンスクリット語を(またインド仏教を学ぶ者はパーリ語や古典チベット語を)学びます。
なぜこのような古典語の訓練を行なうのでしょうか。一つの文明を根底から理解するには,古典語の勉強から入ってゆくのが一番よい方法なのです。どの文明にも,その文明を築き上げた古典語が存在します。西洋文明の土台がラテン語と古代ギリシャ語から築かれたように,インド文明の土台もサンスクリット語から築かれたのです。
現在のアジアの文化はあまりに多様で複雑ですが,そのあまりの複雑さに目を奪われてしまって呆然としまわないためには,まず目を現代という時代の文化から古典期の文化に転じて,アジアの文化をよりシンプルなかたちで理解します。根底にあるシンプルな原理を押さえてから,現在の多様性を理解してゆきます。古典学は地味な学問ですが,極めて古い,幾重にも重なった地層をもつ文明を知るための最も確実な方法なのです。
3000年にわたってインド文明圏で作られ蓄積されてきたサンスクリット文献は,ほぼ無限にあります。サンスクリット語は印欧祖語の面影を色濃く残している言葉で,語彙がゆたかで,響きが美しく,とても文の論理構造がしっかりした言語です。一般に想像されているほど難しい言語ではありません。サンスクリット語が好きになると,ここの講座の授業は天国のように楽しくなります。また,この講座では,望めばパーリ語や古典チベット語も学ぶことができます。パーリ語は原始仏教を学ぶための必須言語ですし、古典チベット語は,チベット文明を理解するために大切です。このような語学の訓練を通して,次第にインドやチベットの文化がわかってきます。チベット学を含むインド仏教学は,日本の学界が世界をリードする位置にあり,日本の誇る学問の一つです。仏教の研究は,インド仏教ならびにスリランカ・東南アジア・チベット・中央アジアなどのインド文化圏の仏教を研究し,中国・日本の仏教のより深い理解のためにアジア全域における仏教の思想史的展開を追ってゆきます。
問い:インド哲学史といういかめしい名前ですが,実質はインド文明学,文化学だ,という言葉の意味がだんだんわかってきました。インド哲学史講座にはお寺の出身の方が多いのですか。
答え:確かに生まれながら仏教に縁があって、仏教を深く学びたいというお寺出身の学生もいますが、単純にインド文化が好きだから来た,という学生も多いです。
問い:最近、インドは世界の中で重みを増していますね。そのうち人口もインドは中国を抜くといわれていますし。
19世紀と20世紀は西洋文明に支配された世紀でした。
しかしアメリカと西洋文明の価値観だけを学んでいればよい時代は終ったのです。
21世紀は,西洋文明と中国文明とインド文明とイスラーム文明の4つがぶつかりあう世界になるでしょう。西洋文明の比重は次第に減ってゆくでしょう。
自国の産業の発展のために,日本は西洋文明だけに目を向けて,学んでいればよかったのですが、そんな時代は終りました。経済的にも,文化的にも,中国文明とインド文明とイスラーム文明の3つの文明は世界でますます重要になってゆくでしょう。それらの3つの文明のもつ独自の文化への理解をもっと深め,相互理解を促進しなければ,人類の21世紀は激しい文明衝突の時代になるでしょう。4つの文明がそれぞれ自文明の価値を絶対と考えて,自文明中心主義を貫くならば,世界に紛争が絶えることがないでしょう。
教育の現場においても,西洋文明以外の3つの文明に対しての異文化理解を促進することが,現在の急務であると思われます。
これからは「私はアジアには無関心」では済まされません。グローバル化の時代だからこそ,西洋文明と中国文明とインド文明とイスラーム文明の,21世紀において最重要な4つの文明については重点的に,将来国際人として生きる若者たちに深い理解をもってもらわなくてはなりませんし,大学・文学部としても,きちんと4つの文明についての教育カリキュラムを整える必要があると思います。
4つの文明を知り,比べてみることで,今まで見えていなかったものも,見えてきます。
これからは,日本においてもインド文明の専門家がますます必要になってきます。インド哲学史講座は,九州で唯一の,インド文明の専門家を養成する講座です。専任教員は二人おり,研究教育に偏りがないよう,バランスのとれた配置をしています。教授の岡野潔はインド仏教を,准教授の片岡啓はインド思想史を専門にしています。
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