文学部
芸術学コース
美学・美術史 専攻
専門科目 (2単位)
美学美術史講義 XX
講義題目:絵と版から考える明清時代の中国美術
上智大学国際教養学部 教授小林 宏光
前期・集中

授業の概要 その豊かさと多彩さにおいて、17世紀の明末清初に比肩できる時期は、中国絵画史上にまれである。明清時代の中でもこの時期は、明王朝が1644年に事実上終焉を迎え、政治的、社会的には混乱期であり、回天後の清王朝も不安定であるが、一方で経済的な発展に裏付けられた都市部の繁栄は続く。絵画は量産され、出版産業の飛躍的成長は、版画を新たな造形メディアとして有効なものとする。そして画家も享受者も、かつてないほどに古代絵画の美術史的理解を深めていた時代である。南京、杭州、蘇州、徽州などの江南諸都市を中心に、多くの画家たちが、過去の伝統を活かし、斬新なアイディアを持ち、外来の画法にも触発されて、自発性と創意にあふれた絵画を生み出す。そこで、この時期のさまざまな絵画(肉筆画と木版画)から美術史研究上意義深い作品を取り上げて、以下の諸点を議論する。1. 中国絵画史上に古代から繰り返され明末に特に盛んとなる“復古からの創造”の理論、制作両面での問題、2. 肉筆画と版画の相互交流から生まれる絵画の相乗的発展という新たな動向、3. 西洋絵画からの触発、4. 都市に暮す市民の生活にまで少しずつ浸透してゆく芸術の大衆化の問題、5. この時期の絵画の近世日本での受容。
学習目標 (1) 全般的な教育目標:
17世紀明末清初期の絵画活動にかかわる教室での講義と議論を通じて、この時期の前後に大きく広がる中国絵画史の地平を見わたす視点を養い、ひいては中国文化の特質に触れ、理解すること。

(2) 個別の学習目標:
中国17世紀の絵画作品(肉筆画と版画)の鑑賞、様式的議論を基盤とし、個別の関心から、作品に何を読み取るのか、それらの視覚的史料としての意義、有効性は何か、を実証的に考察できる力を養うこと。
授業の進め方 以下のようにIーIIIのテーマを掲げ、順次(1)から(9)を講義する予定である。それぞれの問題について、講義中随時、質疑応答の機会をもうける。毎回スライド(デジタル化した)を用いて講義する。
I. 復古と創造−北宋初期と明末・清初期の山水画の場合三例について−
(1)版画による山水画史補完の試みー『秘蔵詮』山水版画と北宋初期画院山水画ー
(2)唐宋山水表現を基盤とした明末山水画の発展ー丁雲鵬、呉彬、董其昌の山水画ー
(3)元末四大家、明代呉派から清初正統派山水画への展開
II. 継承、拡散と断絶−版画と肉筆絵画の相互交流にみる構図あるいはモティーフのリサイクルと再創作−
(4)『顧氏画譜』(別名:歴代名公画譜):複製名画集の制作と画譜としての機能
(5)版画の芸術的発展:陳洪綬、蕭雲従他の版画活動
(6)明末画譜から『芥子園画伝』初集(1679)、二集・三集(1701)の編纂まで
III. 受容と変容−西洋、日本美術との関係−
(7)明清絵画と西洋画法の遭遇
(8)宮廷の中西折衷画と蘇州版画
(9)明清版画から近世日本絵画へ
教科書等 <教科書>
教科書は特に指定しないが、講義前に下記の参考図書(特に4、7、8、10)に目を通しておくことが望ましい。その他授業時に内容に対応した文献、参考図書を紹介する。

<参考図書>
1. ジェームズ・ケーヒル『江岸別意―明代前中期の絵画』(新藤・小林訳) 明治書院
2. James Cahill, The Distant Mountains-Chinese Painting of the Late Ming Dynasty, 1570-1644, Weatherhill, 1981
3. 『明清時代史の基本問題』、中国史学の基本問題4、汲古書院、1997
4.小林宏光「版画と版本」、世界美術大全集・東洋編8・明、小学館、335-344頁、1999
5. ―――「中国の版画―唐代から清代まで」、東信堂、 1995
6. ―――「陳洪綬の版画活動」上、下 國華1061、1062号 1983
7. ―――「中国版画の絵画史的意義:『顧氏画譜』の研究」 美術史128号1990
8. ―――「明末丁雲鵬の山水画と復古の諸相」古美術101号 1992
9. ―――「明清絵画と近世日本画壇:南画の黎明期にいたる中国絵画の受容にそって」、日中文化交流史叢書7『芸術』、大修館書店 1997
10. ―――「明末絵画と西洋画法の遭遇―東洋的芸術観に包み込まれた科学的信念―」、町田市立国際版画美術館『中国の洋風画』展、124-135頁、1995
成績評価方法 出席30%、レポート70
学習相談 講義の前後の時間などを有効に活用し、また課外で必要に応じて時間を設け講義やレポートに関する個別の相談に応じる。
その他 開講時期は8月最終週付近(8月29〜9月2日)を予定している。

対象学年:2年生 3年生 4年生
履修条件:特になし。