文学部
人間科学コース
心理学 専攻
専門科目 (2単位)
心理学講義 II
講義題目:感性認知学−アイステーシスの実証科学
教授三浦 佳世
後期・通常

火曜3限
授業の概要  アイステーシスとは広く「知覚」を意味する古代ギリシャ語である。感覚、感性、感情、思考を含み、日常生活から芸術まで、あるいは身体から社会まで、さらに意識から無意識まで、あらゆるレベルの知覚を意味する言葉であったとされる。この言葉から美学(エステティクス)が誕生している。ここでは、絵画、写真、建築などの感性表現を主な材料とし、見方・感じ方・考え方を総合的、多層的、分析的、実証的に捉え、心の理解を深める。
 基本的には昨年度の集中講義の内容をベースとして、新たな知見や考察を加味し、以下のような内容で行う予定である。なお、進捗状況により、割愛、統合、入れ替えを行う。

1)イントロダクション:アイステーシスとしての実証科学
2)視線知覚・視線認知:
 目玉模様(擬態、相貌視)、視線方向の判断、視線と注意、視線と感情、視線検出細胞、心の理論と他者理解、視線コミュニケーション、キューイング実験
3)視線と感情:
 浮世絵の母子像、母子分離と愛着、無自覚的気づき(Awareness)、情報の統合と選択、共同注視と平行共視、文化と表現、社会的役割と解釈、感性とは何か
4)視覚と表現のリアリティ:
 だまし絵と見立て、絵画的奥行手がかり、質感、遠近法錯視、知覚の恒常性、ことの恒常性
5)ミニチュア効果とリアリティ:
 知覚要因(俯角、ぼかし、色彩)、認知要因(親近性、文脈)、社会と表現
6)リアリティの社会性:
 写真の真実、情報提示法と情報源、VRとWeb、判断のものさし、マルチモーダル、非実在の存在証明、博物館、、事実とは何か
7)生の感性:
 アウトサイダー・アート、イデオサバン、草むらテスト
8)左右の構図:
 グランスカーブ、グリュンワルトの空間図式、運動方向とピクトグラム、光源と凹凸、肖像画と照明、左方過大視、構図とバランス、ラテラリティ
9)モーションラインとオノマトペ:
 速度の視覚表現、文字情報と絵画情報の統合
10)時間印象と時間表現:
 心的時間、速度表現と空間周波数、現実感と余白、表現意図の伝達、社会の速度、病理と時間
11)時間知覚と速度感:
 主観的現在、同時性と時間窓、、持続時間の知覚、順序知覚、注意と時間、記憶と時間
12)時間と意識:脳科学の解釈
 処理の速度と解像度、入力の時間的サンプリング、並列分散処理と情報統合、時間の繰り上げと後付的解釈、印象喚起の時間相
13)よいとは何か(1):
 典型的景観(よい視点)、美の法則、フラクタル、枯山水庭園の感性知、ゲシュタルト心理学と体制化、進化心理学とベビーシェマ、バーラインの理論と中庸の美
14)よいとは何か(2):
 住宅の外観評価、評価方法と問題点、普遍性と個人差、D/H、バリアフリー、五感と建築、パブリック・アート
15)色の高次処理および色の知覚と印象:
 色の錯視、色の様相、色の特徴(視認性と誘目性、進出色と後退色、膨張色と収縮色、興奮色と鎮静色)、色彩環境と安全色彩、イメージと表現、色と言葉、共感覚
学習目標 (1) 全般的な教育目標:
*実験心理学のオーソドックスな知識と方法論を学ぶだけでなく、日常の中で自ら問題を発見し、それを検証していく方法について学ぶ。
*物事を一面的ではなく多面的・多層的に捉える能力を養い、さまざまな問題に対処できる応用力を伸ばす。
*物事を分析的に考えるとともに、統合的に捉えることを学ぶ。
*芸術と科学の両面に親しむ。

(2) 個別の学習目標:
*アイステーシスとしての捉え方を理解する。すなわち、見ること、感じること、考えることを複合的に捉える姿勢を学ぶ。
*関係性の観点から多様な事象を捉え直す。
*視覚(色知覚、形態視、空間視、運動視)の現象、特性、生理学的知識を学ぶ。
*感性あるいは感性情報処理や感性的思考(評価判断)の定義や特徴を考える。
*普遍的な真理と、個人による違い(文化差や地域差、時代差を含む)について考える。
授業の進め方 パワーポイント(PPT)を用いてさまざまな作品や現象を提示しながら授業を進める。PPTの一部を資料として、授業中に配付する。ただし、下記の教科書によって情報の整理を行うことを期待する。
また、毎回、コメントカードを配布し、質問や感想を記入してもらい、出席確認ならびに双方向の授業に役立てる。
教科書等 教科書(三浦佳世「知覚と感性」岩波書店)の対応頁を紹介するので、予習復習や触れなかった内容についての理解を深めて欲しい。
<教科書>
三浦佳世「知覚と感性の心理学」(岩波書店)

<参考図書>
三浦佳世(編著)「知覚と感性」(北大路書房),グレゴリー「脳と視覚−グレゴリーの視覚心理学」(ブレーン出版),横澤一彦「視覚科学」(勁草書房)
成績評価方法 授業の際に記入してもらうコメントカード(質問票)30%、最後に課すレポート70%で評価する予定。なお、レポートの採点に当たっては、講義の理解はもとより、内容のオリジナリティや切り口の新鮮さ、主体的な取り組み(実験や調査を行うなど)、論旨の客観性・論理性に着目する。
学習相談 コメントカードを活用するとともに、直接の相談については、授業の前後を利用してほしい。
その他 感性学府「感性心理学」への読み替え科目
教職(公民)対応科目
認定心理士対応科目
人環院生の受講可

対象学年:2年生、3年生、4年生
教職(公民)
認定心理士