文学部
人間科学コース
社会学・地域福祉社会学 専攻
専門科目 (2単位)
社会学講義 V
講義題目:量的分析と質的分析の統合の試み
教授鈴木 譲
前期・通常

火曜3限
授業の概要 一般的に社会学の分析手法は、量的分析(計量分析)と質的分析とに分類される。これらの手法についての長所・短所はこれまでにも多々議論され、両者を統合することも提唱されてはいるが、抽象的なレベルでの議論にとどまっており、具体的な提案はなされていないのが現実である。

この授業では実験的ではあるが、計量分析の手法である回帰分析を念頭においたアンケート調査と、質的分析の手法であるエスノメソドロジーを念頭においた観察とを組み合わせ、社会現象をより良く理解することを試みる。
学習目標 この授業の学習目標は、以下の通りである。
(1) 全般的な教育目標:
社会学の量的分析手法と質的分析手法とをいかに組み合わせて、社会現象をより良く理解するかを学ぶ。

(2) 個別の学習目標:
回帰分析を念頭においたアンケート調査の手法を学ぶ。
このようなアンケート調査でとらえられない情報はどのようなものであり、さらにそのような情報をいかにして質的に分析するかを知るために、エスノメソドロジーを念頭においた観察の手法を学ぶ。
授業の進め方 この授業は、科目名は社会学講義であるが、実際の進め方は、講義と実習の混合形態を想定している。

初めに、社会学の分析手法についての一般的説明を行う。社会学の分析手法は、量的分析と質的分析に分けて説明されることが多い。しかしながら、この対比を理解するためには、そもそも社会学が思弁哲学に対する実証主義の立場からA. コントによって提唱された学問分野であること、そして、自然科学と計量的分析手法を範とする実証主義への反発として、どのような立場があるのかを理解する必要がある。そのような立場の一つとして、エスノメソドロジーを取り上げる。

次に、実際に計量分析を念頭においた簡単なアンケート調査を学生により実施してもらう。履修者の人数に応じていくつかのグループ分けを行い、各グループでテーマを決め、それにもとづいてどのような質問項目を設定するかを決める。アンケート実施は、原則として学内で行い、実施後は、データをまとめ、分析結果を各グループごとに発表してもらう。ただし、ここでは計量分析の詳細な手法を学ぶことが主たる目的ではないので、分析手法は記述統計に関するごく基本的なものにとどめる。具体的には、平均値、標準偏差などの代表値、クロス表、相関係数、回帰分析などである。

次に、行ったアンケート調査では、どのような前提が暗黙に仮定されているのか、どのような情報が実は欠落しているのか、どのような不確定さが実は存在しているのか、などについて各グループで検討する。そして、そこで識別された暗黙の前提、欠落情報、不確定性などをどのようにして調べることが可能かを検討し、その作業を実際に行ってみる。この作業も、原則として学内において行い、実施後は結果をまとめ、各グループごとに発表してもらう。

この時点で、量的分析と質的分析との関係について再度検討を行い、時間に余裕があれば、「量的分析手法を利用して質的分析を行う」という一見奇妙な実験を行う。たとえば、計量分析を前提とするアンケート調査では、ダブルバーレルの質問は設定しないことが基本となっている。しかしながら、あえてダブルバーレルの質問を設定し、回答者がこのようなある種の理不尽な質問にどのように答えるかを観察することによって、回答者はどのように質問を理解し、自分なりの意味世界を構築しているのかを探ることができる。これは、エスノメソドロジーにおける違背実験の一種であり、glossing の一例とも言える。

計量分析の手法としてのアンケート調査と、エスノメソドロジーの手法としての違背実験やglossingを組み合わせたこのような試みは、これまでに行われたという報告は聞いていない。従って、この授業は全く新しい実験的試みであり、履修者にはこのような試みに積極的に参加することが要求される。
教科書等 <教科書>
前田泰樹・水川喜文・岡田光弘編 『エスノメソドロジー: 人びとの実践から学ぶ』 2007年,新曜社.

成績評価方法 成績評価は、発表とレポートにもとづいて行う。
学習相談 メールなども含めて適宜学習相談に応じる。
その他 授業の進め方にも記載した通り、科目名は社会学講義であるが、実際の授業は講義と実習の混合形態を想定しており、単に講義を聞くという受け身の姿勢ではなく、調査や観察に積極的に参加し、その結果を発表するという自発的・能動的な姿勢が不可欠である。

対象学年:3年生以上