『グリルパルツァー戯曲選』(城田千鶴子)

2025年4月26日に九州大学で「トーマス・マン生誕150年記念講演会」を行った後のことです、それに参加されたフランツ・
グリルパルツァー研究者の城田千鶴子氏から『グリルパルツァー戯曲選
 リブッサ/夢は人生
』(城田千鶴子訳、水声社、2024年)を郵送でいただきました。「翻訳というテーマに深く携われていらっしゃる先生のお手元に是非お届けしたいという願望に打ち克つことは不可能でした」とのことです。なんだか光栄至極に存じます。・

私にとって、グリルパルツァーといえば、『哀れな辻音楽師』、何度も講義で扱いました。トーマス・マン『トーニオ・クレーガー』の雛形のような作品です。『哀れな辻音楽師
』では、革命の季節、そして資本主義化していく社会の中で、圧殺されていく人間性が巧みに描かれています。その結果、作品中で先鋭化されるのは、俗物化する市民的生と純粋化する芸術的生です。あまりにも資本主義化した市民的生は私たちに分断をもたらし、芸術的生の力、とりわけ音楽の力には、分断される生に心的なつながりをもたらします。少なくとも作品中では、家庭を持たない主人公ヤーコプに仮象の家族をもたらす力です。音楽によって見果てぬ夢がもたらされるとも言えましょう。

そんなグリルパルツァーの代表的戯曲である『リブッサ』と『夢は人生』が収録されているのが、今回いただいた戯曲選です。本邦初訳とのこと、それだけもで大変興味深く思います。早速、頁をめくると実に興味深い台詞が私の琴線に触れました。例えば、次のような言葉です。

「あなたは最も高価な財宝の中から選び取るがよい(中略)。私に残されるのは不毛の荒れ地だけだ。そこでは欲望が貧困と戯れる。黄金と呼べるものはお日様の光くらいのものだ。」

なんだか拝読がとても楽しみです。(小黒康正)