イルゼ・アイヒンガー『より大きな希望』(小林和貴子)

今年の春だったでしょうか、当方、日本学術会議の連携会員としてとある分科会に参加した際、たまたま藍のことが話題になりました。その際、藍と青の違いについて私なりに言及したことを覚えています。

「藍は青よりいでて」と言いますが、藍は植物由来の色として現実的な色、青は自然界にない色として非現実的な色ではないでしょうか。青といえば、ドイツ文学では、何といってもノヴァーリスの『青い花』です。

たしか谷川俊太郎の詩にあったような気がします。海は青く見えても、手に取ると透明、青はどこにもない。そんなことを述べましたところ、西洋古典学の先生からはルクレティウスに関する言及がありました。

あれやこれやと思い出しながら、イルゼ・アイヒンガー『より大きな希望』(小林和貴子訳、東宣出版、2016年)を、目下、読んでいます。訳者の小林和貴子氏から、過日いただいたアイヒンガーの著作です。

原作は 1948年に刊行されました。アイヒンガーの最初にして唯一の長編小説は、青の世界を求める少女エレンの物語です。私たちはこの色に何を託されているかを考えながら読み進めなればなりません。

作者のアイヒンガーは、オーストリアがナチス・ドイツに併合された1938年後も、亡命できずヴィーンにとどまり続けました。祖母と叔父叔母はナチスの強制収容所に送られ、そこで命を落とします。

そうしたアイヒンガー自身の、そして家族の歴史が物語に託されています。第2章に当たる「河岸」の舞台はヴィーン2区のレオポルドシュタット、今でも多くのユダヤ人が住む地区です。

私自身、2015年度にヴィーンで研究滞在をした際、小説中で「島」と称された2区に、家族5人で1年間、住みました。そんな偶然を思い出しながら、私は複雑な思いで「青の世界」に沈潜しております。(小黒康正)