令和8年度九州大学文学部同窓会優秀研究賞(進藤良太)

 10月4日に開催された2026(令和8)年度九州大学文学部同窓会総会にて、独文学講座博士後期課程3年の進藤良太さんが優秀研究賞を受賞しました。進藤さんの研究対象は、19世紀初頭に活躍したドイツの作家、E. T. A. ホフマンの作品です。文学の本質に迫らんとする真摯な研究姿勢には、今後一層の深化が期待されます。研究内容の詳細は、下記の〈受賞の辞〉をご覧ください。進藤さん、おめでとうございます。

〈受賞の辞〉
 独文学講座博士後期課程の進藤良太と申します。この度、文学部同窓会賞を賜ったこと、心よりお礼申し上げます。僭越ながら、私の研究内容について少しお話させていただきます。私は18世紀後葉から19世紀初頭に活動したドイツ・ロマン派作家E. T. A. ホフマンを研究対象としています。彼の生きた時代、ドイツの人文学分野では、哲学においてはドイツ観念論、文学においては古典主義、ロマン主義といった諸潮流が相互に影響を及ぼし合いながら展開しました。これらの潮流のうちに、あえて一つの共通性を見るならば、それは彼らが人間の言語的な認識、そして言語による表象の限界を常に問うていたことだろうと私は考えます。
 ホフマンの場合、言語への問いは音楽との対比を通じて先鋭化されていきます。例えば、音楽は激しく鍵盤をたたき、音声は声を荒げることで感情の激しさを直截に表現できます。一方で、文字がこれを「怒り」と呼び、そしてこれに「複雑な」という形容を付したとしても、では、その感情は果たして本当に単に「怒り」と呼びうるものだったのか、またそれがどれほど激しいものだったのかを伝えることは出来ません。直截的な表象能力に劣る文字を用いて、では文学は何をなしうるのかという問いは、ファンタジーやイロニーといった諸概念と結びつきながら、彼の文学作品の中で独特の展開を遂げることになります。
 そして、このような言語の限界を克服せんとした自らの文学活動に、ホフマンは終ぞ満足を覚えることはありませんでした。晩年、彼は自らを「フモール作家」と呼びます。フモールとはドイツ語式の発音ですが、これを英語式に発音するとユーモアとなります。ユーモア、物事をありのままにではなく、むしろ別様に、あるいは所詮は歪めて表現せざるを得ない営みだと、彼は文学をそう呼んだのです。しかし、勿論そこには、言語の限界に対する諦念ではなく、むしろその克服の希求ゆえの自嘲が読み込まれねばならないでしょう。 このように、言語への懐疑という観点からホフマンの文学を見つめ、その営みの精華として「フモール」という概念を提示することが私の研究の中心テーマです。物事のありのままの姿、仮にこれを真実と呼び変えるなら、文学は真実とどのように向き合うべきなのかをホフマンは問うていたことになります。そのような作家あるいはその時代を研究し、紹介することは、もはや真実を初めから必要としないかに見え、そしてそれゆえの問題が噴出しつつあるいわゆるポスト・トゥルースの現代にあっても、決して無意味な営みではないのではないかと考えています。