私の友人である山名淳氏から本をいただいていたことを、思い出しました。山名氏は東京大学大学院教育学研究科の教授、教育哲学・思想史研究の専門家、近年は想起文化の観点から学際的な研究をされているようです。
そんな山名氏がアストリッド・エアル『集団的記憶と想起文化』(山名淳訳、水声社、2022年)を訳出されました。私が今回いただいた本です。この本はドイツ文学研究者の私にとって二重の意味で読み応えのある本でした。
まず、この本は、国際的な記憶研究をリードするドイツの想起文化を紹介する好著です。国際的かつ学際的なドイツの文化学を視野に入れた本と言ってもよいでしょう。「記憶と想起」に関する研究の入門書でもあります。
私自身、個人的な「想起」にひたりました。名前が出てくるアライダ・アスマンとヤン・アスマンのご夫妻に挟まれるように私が写っている写真があります。場所は箱崎、桜が満開です。レナーテ・ラッハマン氏は太宰府でスカーフを購入されました。
雨の中、ジークリット・ヴァイゲル氏と二人で聖福寺を散策したことも、懐かしい思い出です。皆さん、九州大学に来られ、講演をされました。講演会場は今はない箱崎キャンパス、そんなこともあり、私自身、個人的な「想起」にひたったのです。
なお、九州大学の新キャンパスに来られた詩人の名前も見つけました。2023年の夏にベルリーンでお会いしていたドゥース・グリューンバイン氏です。福岡では、2023年の師走に、一緒に筥崎宮を散策しましたし、ご本人の希望でラーメン屋にも行きました。
次に、この本は、秀逸な文学書でもあります。実は「文学」を特徴づける言い回しが多い著作です。以下、気づいた箇所をいくつか上げて本書の紹介を終えたいと思います。私自身、さまざまな「想起」を堪能しました。 (小黒康正)
「文学研究もまた、記憶と想起の問題領域にさまざまな貢献を成してきた」(86頁)
「文学の記憶は、文学における〈構想〉が〈記憶〉を礎としていることに特徴がある」(91頁)
「文学は、(中略)すぐれて記憶の芸術である」(93頁)
「文学テクストは常に集合的記憶のメディアであり続けてきた」(203頁)
「文学とは想起文化における独立した象徴形式である」(204頁)

