東京女子大学教授の杵渕博樹先生からいただいた『ラブ&ピース ドイツ語を原文で読む』(三修社、2025年6月1日、ISBN: 978-4384060416)は、単なるドイツ語学習教材ではない。それは優れた独和対訳本であり、同時に、ドイツと日本の対話を、そして他者や隣人や未知なる人たちとの対話を促す本だ。その意味で、愛と平和の理念に満ちあふれている。
しかし、決して理想論を振りかざしているわけではない。理想を実現するためには、「愛と平和」の文法をめぐる知識や実践が必要だ。本書を手にとってみよう。「よりよい未来を希求する批判的精神」がどのように展開されているかがよく分かるはずだ。選り抜きの文章に優れた解説がつく。加えて、それぞれの導入がすばらしい。フロイトの章、ハーバマスの章は、とりわけ秀逸だ。
外国語を原文で読むと、相手の懐に深く入っていく「気」が養われる。それは、自他の和合を促す「合気」かもしれない。私自身、毎朝、とある武道の稽古に行っているからだろうか、そんなことを考えてしまう。実際、異文化理解は、「言うは易し、行うは難し」だ。昨今の国際情勢を見てみよう。国際語である英語を母語とする国の大統領が、非国際的な傍若無人な振る舞いをする。なぜだろうか。相手の懐に深く入っていく「気」が足りないからだ。考えてみれば、外国語を学ぶことは、「ラブ&ピース」の実践ではないだろうか。外国語教育は平和教育だ、杵渕先生の本を読みながらそう思った。(小黒康正)

