『トーニオ・クレーガー』(小黒康正)

日本におけるトーマス・マン受容に関して言えば、『トーニオ・クレーガー』がやはり一般読者に一番読まれてきたのではないか。日本のマン受容は1904年に始まり、1927年の実吉捷郎(当時は日野捷郎)訳『トオマス・マン短篇集』を経て本格化した。そこに所収されていた『トニオ・クレエゲル』は、同年が岩波文庫の刊行開始年でもあったこともあり、岩波文庫を代表する教養小説として、そして何よりも青春小説として愛読され続けてきた。

 そして、2025年に新訳『トーニオ・クレーガー』(小黒康正訳)が岩波文庫に加わった。この結果、同作は100年も経たないうちに17七番目の訳業がなされたことになる。この事実は、日本において、いや、それどころか世界においても、類を見ない。この集中的な訳出は日本の翻訳文化の特異な縮図ではないか。

 もっともこうした受容に注目したのは、日本というよりも、ドイツであった。トーマス・マンの生誕150年にあたる2025年、誕生日に合わせて4日間の記念行事が行われた際、6月5日のシンポジウムで訳者自身が17番目の訳業を紹介すると多くの耳目を集めたのである。そして、このことはドイツの公共放送であるラジオのBayern2、テレビの Tagesschau ホームページで紹介され、ドイツで最大の発行部数を誇る日刊新聞Frankukfurter Allgemeine Zeitung では2度も記事になったのである。

 そうした中で、慶應義塾大学文学部の川島建太郎教授がご感想をインスタグラムに載せてくださった。私にとっては過分な評価をいただいた思いだ。川島先生、有難うございます。

https://www.instagram.com/p/DOGheN0k_2L/?target_user_id=47648345484&ndid=63e1651eed65cHb18100d8cH63e169b84d92eH31&utm_source=instagram&utm_medium=email&utm_campaign=follower_activity_email&click_source=media&__bp=1

Ps. 2026年7月に同書の第2刷が出ることになりました。(小黒康正)