「民俗学」10選

注:各書の紹介、その他は、担当者の都合により来春更新いたします。しばらくお待ち下さいませ。

学問の目標を人間への理解として捉え、時に卑俗とも思えるほどの実践 において対象に向き合ったとき、学問と言う大上段に立つことへの畏怖はさておき、「世界」との対話が始まる。本頁で捉える民俗学とは、人々の生きる姿の中から実践的に立ち上がってきた学問とも言える。

 

社会科学の研究領域に散在する「残存」カテゴリーを掬い取り、日本人の本質・原点を追い求めてきた実践の積み重ねは、数多くの蓄積を残し、概念を創出してきた。しかしポスト・モダンの到来と共に顕となった数々の問題群……変容する「民俗」への方法論の模索、実践に立ち現れる権威の創出、地域・周辺世界への眼差しが強化するナショナリズムという矛盾……などは、民俗学が大きなパラダイムの転換期に差し掛かっていることを示している。
民俗学という実践に立ち入るために、我々は「民俗」をどこに求めればいいのだろうか、「世界」に対してどのように接していけばいいのだろうか、そして我々はそこから何を学べるのだろうか…今後の課題は数多く残されている。
広大な民俗学の領域を10冊の本で紹介することの限界を感じたため、ここでは民俗学に初めて接する方々を想定して選んでみた。これらの本が民俗学の世界に足を踏み入れるためのガイドとなり、民俗学の実践を行ううえで何かのヒントを得るための手助けとなり、民俗学の未来に真摯に向き合うための後押しとなることを 、切に願うものである。

〈古典〉
1・柳田國男 1997『柳田国男全集 第21巻』筑摩書房(海上の道1961)
2・宮本常一 1971『忘れられた日本人』未來社

〈実践〉
3・宮田登 1993『江戸のはやり神』ちくま学芸文庫
4・福田アジオ 1997『番と衆:日本社会の東と西』吉川弘文館
5・梅屋潔、浦野茂、中西裕二 2001『憑依と呪いのエスノグラフィー』岩田書院

〈内省〉
6・大月隆寛 1992『民俗学という不幸』青弓社
7・岩竹美加子 1996『民俗学の政治性:アメリカ民俗学一〇〇年目の省察から』未来社

〈展望〉
8・菊地暁 2001『柳田国男と民俗学の近代:奥能登のアエノコトの二十世紀』吉川弘文館
9・小松和彦、関一敏編 2002『新しい民俗学へ:野の学問のためのレッスン26』せりか書房

〈基礎〉
10・上野和夫[ほか]編 1987『民俗調査ハンドブック』吉川弘文館

(八坂信久)


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