「社会学」10選

<古典>
社会学の方法論について、メタレベルで説得的に議論するのではなく、具体的な事例研究によってこれを提示している3冊を選びました。

1.ウェーバー1904(1988)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 (大塚久雄訳 岩波書店)

「俗なるもの」(資本主義システム)の存立基盤を解明するため、「聖なるもの」(プロテスタンティズムの倫理)が引き合いにだされ、この両者を媒介するものとして個人が位置づけられています。「方法論的個人主義」と呼ばれる立場に依拠しつつ、事象を個人にも社会にも還元せずひとつの流れとして読みとっていくこの著作は、agencyというアイデアを先取りしているようにもみえます。これは読解のほんの一例にすぎませんが、読み手の座標軸の推移によって角度を変えて迫ってくるこの著作は、まさに「現代に生きる古典」だと思います。

2.デュルケム1897(1985)『自殺論』(宮島喬訳 中公文庫)

極めて私的・個人的にみえる「自殺」という現象を、徹底的に社会的要因から説明しようとする迫力にまず圧倒されます。この著作については、統計処理の大雑把さなど方法上の難点についていくつか指摘されていますが、データに基づく推論の立て方など社会学的実証の基本プロセスが濃縮されているため敢えて取り上げました。

3.パーク1925(1972)『都市』(大道安次郎ほか訳 鹿島出版会)

近代産業社会の解体と再統合のダイナミクスを、どのような位相において認識し理解していくか。この問いに対して用意される枠組が「都市」であり、人間の絶えざる移動と適応の営みが「人間生態学」という観点から説明されていきます。特に第二章は、都市構造論の基本的な範型を定式化した論文として有名。全体的には、認識枠組としての「都市」の可能性を引き出す試みとして読むことが出来ると思います。

<社会学とは何か / 何のための社会学か?>

こうした問いの立て方自体を問題化することもできますが、私自身は、個別の問題関心の根底にこの問いを所持し続けることは必要だと思っています。確かに、学問の自己言及性はときに閉塞へと向かいがちですが、内的原動力として活性化の糧とすることもまた可能だと思います。ストイックに正解を追求するのではなく、問題意識の根源にこの問いを共有している3冊を選びました。

4.ミルズ1959(1995)『社会学的想像力』(鈴木広訳 紀伊国屋書店)
5.ウェーバー 1919(1980)『職業としての学問』(尾高邦雄訳 岩波書店)

学生に対する講演をまとめたもので、第一次大戦後の混迷のなか、新しい時代の学問を創造する意気込みが伝わってきます。すべての社会領域において合理化が浸透し、かつ混迷した社会的状況のなかで、学問にロマンチシズムを投影させる逃げ方を彼は厳しく批判します。彼によると、学問が第一義的に目指すべき価値は明晰性であり、世界の意味の開示や預言を求めるべきではない。学問の制度的な職業化を宿命として受け止めたうえで、再び学問の人間的意味について問い直すことが本書のテーマとなっています。
合理化の趨勢そのものを批判する、丸山真男『日本の思想』と併せて読むことをお勧めします。東西の思想のコントラストを目の当たりにすると同時に、地続きのエートスを感じることが出来ると思います。

6.ギデンズ1990(1993)『近代とはいかなる時代か?』(而立書房)

一流の時代診断書であると同時に、社会学が目指すべき方向性についてギデンズ自身の見解が明瞭に提示されています。

<生活世界から>

7.ガーフィンケル 1967(1987)『エスノメソドロジー』(山田富秋ほか訳 せりか書房)

これまでの社会学の常識を反転させた、記念碑的著作。具体的には、社会的事実が人々の実践を通じてどのように産出されるのか、その人々の方法について解明することがエスノメソドロジーの課題として設定されています。構成主義や会話分析はもちろん、ギデンズやハーバーマスなど個々の理論家にも様々な角度から影響を与え続けています。

<エスノグラフィー>

8.ウィリス 1977(1996)『ハマータウンの野郎ども』(熊沢誠ほか訳 筑摩書房)

鋭い観察眼(ウィリスの言葉では「洞察」)を武器に、支配文化を異化することにかけては天才的な手腕を発揮する「野郎ども」。一部「生活誌」は、彼らが作りだしそこに暮らす世界を鮮やかに描き出したもので、読む者を惹きつける記述が展開されています。 主体的隷属のアイロニーを基調とする二部「分析篇」は、個人的にあまり好きではありません。自由に振る舞う彼らの身振りを、「抵抗」という観点から読み解く出発点に閉塞感の原因があるような気がします。階級再生産のメカニズムなどとっくに承知で、それでもこの場所を選びあっけからんと生き抜いていく術について、分析し説明を与える概念は今のところ存在しないのでしょうか…。この点については私自身の研究とも関連してくるため、今後も継続して考えていきたいと思っています。

<ジェンダー論>

9.江原由美子 1985 論文「からかいの政治学」(『女性解放という思想』所収 剄草書房)

ジェンダー論食わず嫌いのひとに、初めの一冊としてお薦めします。

<教科書>

10.寺田篤弘『道具としての社会理論』(新泉社)

1.どこからでも読める 2.バランスの良さ 3.表現の明瞭さ という教科書の必要条件をクリアしているだけでなく、提示された理論に対する批判の文脈までも丁寧に解説されています。
文献案内はありませんが、おおまかな流れを把握するには格好の教科書です。
(有薗真代)


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