民俗学

民俗は、彼我の生活の拠りどころである。そこには、納得づくでなければ動かないような頑なさで占められているようでいて、災いを避け、幸いに生きるために新たなるものを取り込む実践が秘められている。

 

宗教者が発する言説の世界とは重みを異にし、民俗の世界は身体実践の反復としての慣習の世界に重きをおいている。それは生活のしがらみの中 で、そうでなければどうにもうけとめようのなかった想像力で満たされた世界であり、こうした背景の生活に照らして、民俗の言葉は重みをもってくるのであ る。

 

民俗学は、この同朋と、それを生み出した人々に向かって、絶えず自らの言葉を練り上げようとしてきた。そこには、研究者自身もそのうちにあっ て、相手を客体視しきれずに語りかけていたのだが、そのしがらみの泥臭さが、文化人類学/社会学で見てきたような「絶えず変成する世界社会」という認識の 変化から、逆に学ぶべき言葉の収蔵庫としてたち現われてきている。「古代的なるもの」―それは社会が共に生活してゆく上において「基礎的なるもの」の謂い であったのかもしれない。(飯嶋秀治)


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